あなた...小さなレストランの若きオーナー
交差点
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「ねぇ、このあとどっかご飯食べ行きたい」
胸元で甘える女の肩を抱きながら「ほうか、何食いたいんや」と聞いた。
それは商売としての点数稼ぎに他ならなく、それを解っていても虚しくはなかった。
真島とてこの女を利用している。
余計なことを考えないためにこの場所を利用しているのだ。
「や・き・に・く」
耳元で囁かれ「おっしゃ。行ったろ」と笑う。
薄暗くシャンデリアが揺れる店内で時間を過ごすことは、気晴らしにちょうど良かった。
「来週、誕生日なのー」
店を出ると腕を絡ませてきた女がそう言った。
「なんや、なんか欲しいもんあるんか」
「吾朗ちゃんなんか買ってくれるのー?」
「当たり前やろ。好きなもんなんでも買うたるでぇ」
その様子を後ろから見ていた若衆は首を傾げていた。
(最近親父、やたらと遊ぶようになったな。
その割に楽しそうに見えねぇ。
あの飯屋にも顔ださねぇし、事務所にいるときは
機嫌悪りぃし。
そういやあの飯屋の女、地味な割に美人だったよな…)
不思議な気持ちで付いていきながら、ふと足を止めた。
組長と女が腕を絡ませ歩いている前に、見覚えのある女が立っていたからだ。
「あれ...飯屋の...」
男がそう言うのと同時に、視線に気付いたのか真島も歩みを止めた。
「吾朗ちゃん、どうしたの?」
歩みを止めた真島を訝しがるように女が顔を覗き込んでくる。
けれど男の目は、目の前に立ちすくむ人間に目が釘付けだった。
「....」
柚葵だった。
真島の姿を見つけた柚葵は目を見開き、その後下唇を噛んだ。
何かに耐えるような顔をした後、こちらに向かって歩いてくる。
真島の思考は停止し、体が痺れるのを感じた。
立ち止まる二人の横を柚葵が通り過ぎようとする。
このまますれ違えばいいのだ。
頭ではそうわかっていた。
「柚葵」
刹那、名を呼び腕を掴んでいた。
ほぼ無意識だった。
「柚葵」
もう一度名前を呼ぶ。
その声に女は顔を上げた。
「...あかんな」
こちらを見上げる女の顔が歪み、涙が溢れた。
顔をぐしゃぐしゃにした柚葵が真島の腕を振りほどく。
「やめてください」
詰まったようにそう呟くと、柚葵は逃げるように走り出した。
真島の足は動かない。
手を掴んではいけないことをわかっていた。
わかっていたのにできなかった。
「...西田、さっきの女追いかけて家まで送ってこい。早よいけ!」
「は...はい!」
弾かれたように若衆が走り出す。
「...すまんすまん、焼肉やったな。
その後わしともっとええことせえへん?」
「もーやだー」
真島の冗談にキャバクラ嬢が笑う。
他の誰かを抱けば忘れるだろうか。
いや、今の自分に他の誰かを抱けるのだろうか。
神室町のネオンが、真島の姿に影を作った。
胸元で甘える女の肩を抱きながら「ほうか、何食いたいんや」と聞いた。
それは商売としての点数稼ぎに他ならなく、それを解っていても虚しくはなかった。
真島とてこの女を利用している。
余計なことを考えないためにこの場所を利用しているのだ。
「や・き・に・く」
耳元で囁かれ「おっしゃ。行ったろ」と笑う。
薄暗くシャンデリアが揺れる店内で時間を過ごすことは、気晴らしにちょうど良かった。
「来週、誕生日なのー」
店を出ると腕を絡ませてきた女がそう言った。
「なんや、なんか欲しいもんあるんか」
「吾朗ちゃんなんか買ってくれるのー?」
「当たり前やろ。好きなもんなんでも買うたるでぇ」
その様子を後ろから見ていた若衆は首を傾げていた。
(最近親父、やたらと遊ぶようになったな。
その割に楽しそうに見えねぇ。
あの飯屋にも顔ださねぇし、事務所にいるときは
機嫌悪りぃし。
そういやあの飯屋の女、地味な割に美人だったよな…)
不思議な気持ちで付いていきながら、ふと足を止めた。
組長と女が腕を絡ませ歩いている前に、見覚えのある女が立っていたからだ。
「あれ...飯屋の...」
男がそう言うのと同時に、視線に気付いたのか真島も歩みを止めた。
「吾朗ちゃん、どうしたの?」
歩みを止めた真島を訝しがるように女が顔を覗き込んでくる。
けれど男の目は、目の前に立ちすくむ人間に目が釘付けだった。
「....」
柚葵だった。
真島の姿を見つけた柚葵は目を見開き、その後下唇を噛んだ。
何かに耐えるような顔をした後、こちらに向かって歩いてくる。
真島の思考は停止し、体が痺れるのを感じた。
立ち止まる二人の横を柚葵が通り過ぎようとする。
このまますれ違えばいいのだ。
頭ではそうわかっていた。
「柚葵」
刹那、名を呼び腕を掴んでいた。
ほぼ無意識だった。
「柚葵」
もう一度名前を呼ぶ。
その声に女は顔を上げた。
「...あかんな」
こちらを見上げる女の顔が歪み、涙が溢れた。
顔をぐしゃぐしゃにした柚葵が真島の腕を振りほどく。
「やめてください」
詰まったようにそう呟くと、柚葵は逃げるように走り出した。
真島の足は動かない。
手を掴んではいけないことをわかっていた。
わかっていたのにできなかった。
「...西田、さっきの女追いかけて家まで送ってこい。早よいけ!」
「は...はい!」
弾かれたように若衆が走り出す。
「...すまんすまん、焼肉やったな。
その後わしともっとええことせえへん?」
「もーやだー」
真島の冗談にキャバクラ嬢が笑う。
他の誰かを抱けば忘れるだろうか。
いや、今の自分に他の誰かを抱けるのだろうか。
神室町のネオンが、真島の姿に影を作った。