「ふぅ…」

首にかけたタオルで流れ出る汗を拭った。
もう秋になるとは言え、東京の残暑は厳しいものだ。

「これはもうOKかな」

自分で塗装した看板を眺め、柚葵は3歩ほど後ろに下がると店舗の入口を眺めた。

「どの辺に付けたらいいかな」




大きな樽を置いて、その上に置く？
でもいかにもイタリアンっていう雰囲気は避けたいし…
かと言って上の方につけるにはこの看板は簡素だよね…
そういえばこの間ヴィンテージショップで見かけた椅子、可愛かったな。
あの椅子を買って、その上に置いてみようか。





「でもちょっと高かったんだよね…」

誰に言うわけでもなく独りごちた。


幼い頃から夢見ていたことが、もうすぐ叶う。


“いつか自分のお店を持ちたい”

“お店を持つなら神室町で”


二つの夢を同時に叶えることができるなんて思ってもみなかった。


『GRAND』と書かれた看板を眺め、満足の溜息を吐く。
この町で、もうすぐ新しい人生が始まろうとしていた。