骸フラ
いらないものは捨ててしまえばいいと思う。菓子の袋、インクの切れたボールペン、壊れたバッグ、血で濡れた服、置かれているぬいぐるみ、使わなくなった毛布。
ゴミと同じだ。消費期限切れの存在も同じように捨てられる。
この世界は無かったことになる。
その上、彼らの戻った世界にフランという存在が関わることはなくて、自分は結局どこまでホンモノだったのだろうかと問う。
-たとえば自分の立場
今の自分が持っているこの幹部という立場だって、前任のアルコバレーノが戻ればなくなる。
-たとえばあの笑顔
自分には決して手に入ることの無いもの。師匠の特別にはなれない。師匠の特別は出会った時からずっと沢田綱吉だった。自分は一時的に力を必要とされただけ。
本当の自分の居場所は最初から無かったのかもしれない。
世界は変わる。今よりずっといい世界に、正しい世界になる。そこに自分の居場所が無いとわかっていても自分のすることを躊躇いはしなかった。
_だってミーはそれでいいかなって思ってますしー
いらないものは捨てられる。最初からわかってる。だから望まない。不要物には有り余る感情だ。
それでいいと思っていても__いやそう思っていないと本当にどうしようもできなくなってしまうくらいに、本当は、怖い。
泣いてるなんてかっこ悪いと思うのに、涙は止まらない。変わらない事実なのだ、これからの未来は。
「君という子はどうしてこうも信じない」
突然響く声に体が跳ねる。目の前に構築されていく骸の幻覚にまた涙が出る。どれだけ強がっても好きなのだ。
「何しに来たんですかー心配しなくてもさっさと出してあげますよー」
涙を拭って、声が震えないように堪えながら極めて平静を保って言う。いつもの生意気な自分に聞こえてるだろうか。
「僕の前でくらい、強がってないで本当のこと言いなさい」
骸がそう言うのに、何も言葉が出ず俯くばかりだ。言いたいことがあっても、言ってしまえば耐えられなくなってしまう。
「ほんとうにお前は……」
流石に呆れられたかと、骸の言葉に体を強ばらせる。そんなフランに優しく、骸の幻覚は触れる。
「愛してますよ、フラン」
_ だから怯えないで、信じて。
フランスの山奥、祖母との二人暮しは退屈すぎて自分が本当に存在するのかすら疑ってしまう。やることが本当にないから川を下流まで流れてみたり。
10年後の記憶があったって、今の自分は10に満たない子どもで、自分で何かをする力もないし、幻覚も十分に操れない。
きっとこの先、あの世界と交わることはない。そう思うようになっていた。 どれだけ師匠のことが好きでも、盲目に信じることはできない。いっそそう出来た方が夢があるようにさえ思う。
でも見つけられないだろう。それ以上に探さないでいて欲しい。期待するほど不安になるから。
この先ずっと僅かな記憶だけでいいんだ。
ある日こんな山奥へ現れた物好きな人達に、驚きと__それ以上の喜びが体の中に渦巻く。
随分と荒っぽいけど、必要とされている。そのことにどうしようもなく嬉しくなるのに、それでもまだ関わらないで欲しいと思ってる。これ以上苦しい思いをしたくない。
だから生意気な言い方で、知らないふりをする。幻覚が十分に扱えないのは事実なのだし、望まれるような自分じゃない。たまたま見つけたから、戦力として必要としてるだけかもしれない。
_ほらやっぱり必要なのは戦力としてのミーじゃないですか。
嫌がらせだ。いらないなら捨てられるだけ。ほんの一瞬でも迷惑だと思うのならそれでいい。面白そうだからと言い訳をして、捨てられる方を自分で選ぶ。いっそ記憶の全てを信じられなくして欲しい。愛の言葉も全部。それができる人だととっくに知っている、覚えている。
だからそんな風に安心した顔をしないで。選んだのが師匠じゃなかったら傷ついてくれた?全て未来の自分でしかない筈だ。何も感じることなんてないだろう。
-だったらこんな子どもをわざわざ育てようとしない
自分に好意を抱いているから利用しやすいと思ってるのかもしれない。
-愛してるなんて嘘で言うような人じゃない
わかってる、それでも、信じていられない。
だから許して欲しい。こんな試すような真似だって、我儘も。全部子どもの言うことなんだから。
信じられるようになるまで待って欲しい。
だって師匠を愛してる!!
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