理由
〇〇の話はこうだ。孤児だった〇〇を拾い名前を付け、読み書きを教え体術と最低限生活ができるような仕込みをした恩人がいたらしい。親の顔さえ知らなかったがその恩人と暮らしているだけで幸福で、毎日が楽しくて明るくて…と朗らかに〇〇は語った。だが一変して表情が暗くなる。
〇〇と恩人がいつもの日常を送っていたある日のこと、突然山賊が山から降りてきて金品を強奪し、好き放題やらかしていったらしい。勇猛な〇〇の恩人は当然その山賊をどうにかしようと村の男達を連れ立って戦いに出た。
幼かった〇〇もそれに参加し、敵を排除しようと躍起になった。
だが圧倒的に幼かった〇〇が戦闘に手だれた連中に勝てるはずもなく、一瞬の隙に間合いに入られ急所を狙われる。
もう助からない、そう悟った〇〇は死ぬ前にもう一度恩人の笑顔が見たかったと、そう思ったらしい。
だが〇〇は助かった。恩人が身を挺して守ったことによって。
鉛玉が何度も何度も恩人へ発砲されても恩人は決して〇〇を守ろうとして離れなかったのだと言う。
村民達が勝利して治療を受けている最中、息も絶え絶えになった恩人は最後に〇〇に伝えたいことがあるのだと動揺する〇〇の手を握り、口を開いた。
だが間に合わなかった。
何かを伝える前に恩人は生き絶えた。
〇〇は声が枯れるまで叫んだという。その後しばらく喋れなくなり、歩けなくなり、街の医者や村民が献身的に支えてもぴくりとも笑わなくなったらしい。
そしてようやく自立して生活できるようになった頃に死にたいと思うようになったのだと〇〇は自嘲気味に笑った。
全てを聞いたおれは呆気にとられ、しばらく放心した。
……コラさん。おれはあんたに救われ、あんたの愛を貰って今日まで生きてきた。
だがこいつは恩人の愛が呪いになってしまった。最後の言葉を聞けず、それが恨み言だったのかあたたかい遺言だったのかさえ分からずに亡くなってしまった。
そうして〇〇の恩人の死はこいつにとって呪いとなったのだ。
「恩人に報いて生きろとか、それでも楽しいことがあるとか、死ぬのには早くて生きてればいいことがこれからたくさんあるとか…そんな言葉を山のように投げかけられました…
けれどどれも私には響かなくて、あの人の命を貰ってまで私に生きる価値はあったのかと思わない時はありません」
ハッとして気がついた。
〇〇はもしかしたらおれがそうなっていたのかもしれない存在だ。
あの時挫折するのは簡単だった。約束の隣町へ行くの諦めて雪の中へ倒れ込んで死を受け入れるのは簡単だった。
だがおれはそうしなかった。
絶対に諦めなかった。
それはコラさんへの誓いであったりだとか
こんなおれを救ってくれた愛するあの人の命を貰って生きながらえたのだから。絶対に死なないという覚悟だった。
それからは復讐に燃え、ドフラミンゴを倒すためだけに生きた。
あの人を刻み込むために体にあの人の証を体に彫った。
こいつも恩人への想いは同じなのだ。ベクトルは確かに違うが同じだ。
おれ達はよく似ているのだ。
「あの時私が行かなければあの人は助かったのかもしれない。死ななかったのかもしれない。私が…弱いから…弱かったから…」
〇〇がポロポロと涙を流す。心の脆いところを人に曝け出すのは勇気がいる。
こいつは今、己と戦っている。
おれは涙を拭うことはせずに静観した。
「だから死にたいんです。あの人のこと…大好きだから…こんな私が嫌いだから…」
これで分かってくれましたか?と〇〇は微笑む。無理やりに作られたその笑みは手慣れていてあぁ、こいつはこうやって生きてきたのだと思った。
「納得はしたが理解はしねェ。恩人に命を貰ったのなら精一杯生きる。それが何よりの恩返しだろ」
「私はそうは思いません」
「……なら勝手にしろ」
〇〇を一人残して食堂へ出る。あの日の雪と血とコラさんの笑顔が頭によぎって思わず壁を殴った。
…なぁ、コラさん。おれあいつになんて言ってやりゃいいんだ。
答えはわからない。だが理解できないからといってこの船から降ろすつもりもない。〇〇が生きやすい環境を作る。
とりあえずはそれがいいのではないだろうか。
船員達に手伝って貰って〇〇へ生きる意味を与えよう。
まずは手始めに趣味を持たせるのも良いかもしれない。
イッカクとショッピングに出かけさせるのもいい。
本題を無視したいと頭が考えているのかそんなくだらないことを考えた。
船長室へ辿り着いてベッドへ雪崩れ込む。
答えのない、心という名の不可解をあいつにど説くか考えておれは読みかけの医学書を開いた。
現実から逃れるように。
〇〇と恩人がいつもの日常を送っていたある日のこと、突然山賊が山から降りてきて金品を強奪し、好き放題やらかしていったらしい。勇猛な〇〇の恩人は当然その山賊をどうにかしようと村の男達を連れ立って戦いに出た。
幼かった〇〇もそれに参加し、敵を排除しようと躍起になった。
だが圧倒的に幼かった〇〇が戦闘に手だれた連中に勝てるはずもなく、一瞬の隙に間合いに入られ急所を狙われる。
もう助からない、そう悟った〇〇は死ぬ前にもう一度恩人の笑顔が見たかったと、そう思ったらしい。
だが〇〇は助かった。恩人が身を挺して守ったことによって。
鉛玉が何度も何度も恩人へ発砲されても恩人は決して〇〇を守ろうとして離れなかったのだと言う。
村民達が勝利して治療を受けている最中、息も絶え絶えになった恩人は最後に〇〇に伝えたいことがあるのだと動揺する〇〇の手を握り、口を開いた。
だが間に合わなかった。
何かを伝える前に恩人は生き絶えた。
〇〇は声が枯れるまで叫んだという。その後しばらく喋れなくなり、歩けなくなり、街の医者や村民が献身的に支えてもぴくりとも笑わなくなったらしい。
そしてようやく自立して生活できるようになった頃に死にたいと思うようになったのだと〇〇は自嘲気味に笑った。
全てを聞いたおれは呆気にとられ、しばらく放心した。
……コラさん。おれはあんたに救われ、あんたの愛を貰って今日まで生きてきた。
だがこいつは恩人の愛が呪いになってしまった。最後の言葉を聞けず、それが恨み言だったのかあたたかい遺言だったのかさえ分からずに亡くなってしまった。
そうして〇〇の恩人の死はこいつにとって呪いとなったのだ。
「恩人に報いて生きろとか、それでも楽しいことがあるとか、死ぬのには早くて生きてればいいことがこれからたくさんあるとか…そんな言葉を山のように投げかけられました…
けれどどれも私には響かなくて、あの人の命を貰ってまで私に生きる価値はあったのかと思わない時はありません」
ハッとして気がついた。
〇〇はもしかしたらおれがそうなっていたのかもしれない存在だ。
あの時挫折するのは簡単だった。約束の隣町へ行くの諦めて雪の中へ倒れ込んで死を受け入れるのは簡単だった。
だがおれはそうしなかった。
絶対に諦めなかった。
それはコラさんへの誓いであったりだとか
こんなおれを救ってくれた愛するあの人の命を貰って生きながらえたのだから。絶対に死なないという覚悟だった。
それからは復讐に燃え、ドフラミンゴを倒すためだけに生きた。
あの人を刻み込むために体にあの人の証を体に彫った。
こいつも恩人への想いは同じなのだ。ベクトルは確かに違うが同じだ。
おれ達はよく似ているのだ。
「あの時私が行かなければあの人は助かったのかもしれない。死ななかったのかもしれない。私が…弱いから…弱かったから…」
〇〇がポロポロと涙を流す。心の脆いところを人に曝け出すのは勇気がいる。
こいつは今、己と戦っている。
おれは涙を拭うことはせずに静観した。
「だから死にたいんです。あの人のこと…大好きだから…こんな私が嫌いだから…」
これで分かってくれましたか?と〇〇は微笑む。無理やりに作られたその笑みは手慣れていてあぁ、こいつはこうやって生きてきたのだと思った。
「納得はしたが理解はしねェ。恩人に命を貰ったのなら精一杯生きる。それが何よりの恩返しだろ」
「私はそうは思いません」
「……なら勝手にしろ」
〇〇を一人残して食堂へ出る。あの日の雪と血とコラさんの笑顔が頭によぎって思わず壁を殴った。
…なぁ、コラさん。おれあいつになんて言ってやりゃいいんだ。
答えはわからない。だが理解できないからといってこの船から降ろすつもりもない。〇〇が生きやすい環境を作る。
とりあえずはそれがいいのではないだろうか。
船員達に手伝って貰って〇〇へ生きる意味を与えよう。
まずは手始めに趣味を持たせるのも良いかもしれない。
イッカクとショッピングに出かけさせるのもいい。
本題を無視したいと頭が考えているのかそんなくだらないことを考えた。
船長室へ辿り着いてベッドへ雪崩れ込む。
答えのない、心という名の不可解をあいつにど説くか考えておれは読みかけの医学書を開いた。
現実から逃れるように。
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