誕生日大作戦
帰るなり、瞬くんはさっそくブロックを床に広げてタワーの制作にとりかかった。俺は後ろのソファに座り、その様子を眺めながらたまに口を挟む。しまいには「パパもううるさい!」と文句を言われてしまったので俺は大人しく微笑んで見守る優しき像となった。
千紗はおみやげに買って帰った総菜とデザートを母に見せ、夕飯の準備に取りかかっている。
さて、千紗の欲しいもの……とはちょっと違う気もするけど、でも迷惑にはならなそうなものは見つけられたと言っていいだろう。
……ただ、ちょっとプレゼントとしては安すぎだけど……。
ま、まあこれは仕方ない。お小遣いとはいえ、俺の金は家族の金でもあるのだから、高けりゃいいってもんじゃないんだ。
それに俺はもう、これをつけてる千紗を見たい! 絶対可愛いから! という気持ちでいっぱいになっていた。
そういえば、千紗が喜ぶものというのがまったくわからなかったから、その謎を解くのに躍起になっていたが、なにもそれにこだわる必要もなかったのか。俺の好みで千紗に似合うであろうものっていうのも、アイデアのひとつとしてはありだったのか。千紗はファッションにこだわりもないんだし。うーん、盲点。
まあ俺の好みがとんでもなく世間からズレていたら、ちょっと申し訳ないことになるかもしれないけど……。
何も無理して相手の望みを聞き出して叶えることがプレゼントではないのだ。……いや、もしかしたら千紗にも欲しいものがあるかもしれないけど。直接聞けば教えて貰えるかもしれないけど。
だったら尚更、それほど金銭的に負担がかからない髪飾りにしておけば、当日になにか希望のものがあるなら追加で買うという手も使える。
うん! 名案じゃないか!?
俄然やる気に満ちてきた。
とりあえず、仕事の帰りにでもお店を巡ってみよう。
ようやくここ数日の悩みの突破口が見え、一人顔を綻ばせていると、瞬くんがほっぺを膨らませながらこちらを振り返り、ブロックの塊を持ってソファにのぼってきた。
「ぱぁぱぁ~、かっこいーかたちにならないよ~」
俺のアドバイスを無視した瞬くんは、どうやらにっちもさっちもいかなくなってしまったようである。
どれどれ、と俺は腰を上げてタワーの建設予定地を覗き込んだ。
「あー、そうだね、まっすぐ重ねただけだと棒になっちゃうから、下の方はこう……ずらして……、段々になるようにしたらいいんじゃないかな」
「あ、そっかー! こう?」
「そうそう。段々数を減らして小さくしていけばいいよ。んでね、途中でこういうブロック使って柱にすれば大きくしやすいよ」
瞬くんは素直にふんふんと頷いてかちゃかちゃとブロックを重ね合わせていく。
俺はあまり創造性のあるタイプじゃないから、どこからどう着手していいのかよくわからないんだよな。瞬くんはとりあえず見切り発車に縦長のものを生成していたらしい。
一応お手本の写真は撮ってきたけど、でも自分で作り方を模索するのは大事だよな、と俺は瞬くんの試行錯誤を見守る。
あ、そうだ、と思いだし、声を潜めて瞬くんに話しかける。
「……そういえば、瞬くんありがとね、ママへのプレゼント、いいの見つけてくれて」
「それっておひめさまのやつー?」
「そうそう。あそこにあったのはママは恥ずかしがっちゃってたから、似たようなやつでママに似合うの探してみるよ」
「いいよー! しゅんはママのこといちばんよくしってるからねえ、なんでもきいたらいいよ」
「恐れ入ります……」
瞬くんは一切小声で喋ってはくれなかったけど……、まあこれだけで話の内容はわかるまい。
よかった。ここで瞬くんが、自分が選ぶ! と言い出したらまた一波乱起こるところだった。一人で瞬くんを連れて雑貨屋巡りというのはさすがにまだ勇気がでない。
これ、もっとやんちゃで人見知りしない子供だったらもっと大変だったんだろうな……と思うと世間のお母さんお父さんには頭が下がる気持ちだった。
---
それから数日、何日かかけて仕事のあとお店を巡り、なんとかこれはよいのではないか、というものを見つけた。
ネットであれこれ調べ、店員さんにも外でつけても恥ずかしくないものなのかなど聞きまくった。だって、千紗がお化粧のときに髪を上げるときに使うヘアバンドというのも似たような雰囲気をしていたし、俺がおしゃれだと思っていたら実は一般的には外でつけるものじゃありませんでした、なんてことになったら千紗に恥ずかしい思いをさせてしまうからな。
雑貨屋の中をじっくり見てみると女性向けのアイテムというのは、家の中で使うだけのものでもやたらに見た目が凝っていて、なにがなんやらだった。まあ、わかるわけないんだけど。
しかし、悩んだおかげでそれなりにセンスの良さそうなものが選べたと思う。
実際に千紗がつけた姿を見てみないとわからないが、安っぽい感じではないし、かといって主張が激しいわけでもない。千紗がよく着る服とも喧嘩しないはずだ。
うきうきした気持ちを千紗に悟られないよう、必死に表情に気をつけながら数日を過ごした。
千紗はおみやげに買って帰った総菜とデザートを母に見せ、夕飯の準備に取りかかっている。
さて、千紗の欲しいもの……とはちょっと違う気もするけど、でも迷惑にはならなそうなものは見つけられたと言っていいだろう。
……ただ、ちょっとプレゼントとしては安すぎだけど……。
ま、まあこれは仕方ない。お小遣いとはいえ、俺の金は家族の金でもあるのだから、高けりゃいいってもんじゃないんだ。
それに俺はもう、これをつけてる千紗を見たい! 絶対可愛いから! という気持ちでいっぱいになっていた。
そういえば、千紗が喜ぶものというのがまったくわからなかったから、その謎を解くのに躍起になっていたが、なにもそれにこだわる必要もなかったのか。俺の好みで千紗に似合うであろうものっていうのも、アイデアのひとつとしてはありだったのか。千紗はファッションにこだわりもないんだし。うーん、盲点。
まあ俺の好みがとんでもなく世間からズレていたら、ちょっと申し訳ないことになるかもしれないけど……。
何も無理して相手の望みを聞き出して叶えることがプレゼントではないのだ。……いや、もしかしたら千紗にも欲しいものがあるかもしれないけど。直接聞けば教えて貰えるかもしれないけど。
だったら尚更、それほど金銭的に負担がかからない髪飾りにしておけば、当日になにか希望のものがあるなら追加で買うという手も使える。
うん! 名案じゃないか!?
俄然やる気に満ちてきた。
とりあえず、仕事の帰りにでもお店を巡ってみよう。
ようやくここ数日の悩みの突破口が見え、一人顔を綻ばせていると、瞬くんがほっぺを膨らませながらこちらを振り返り、ブロックの塊を持ってソファにのぼってきた。
「ぱぁぱぁ~、かっこいーかたちにならないよ~」
俺のアドバイスを無視した瞬くんは、どうやらにっちもさっちもいかなくなってしまったようである。
どれどれ、と俺は腰を上げてタワーの建設予定地を覗き込んだ。
「あー、そうだね、まっすぐ重ねただけだと棒になっちゃうから、下の方はこう……ずらして……、段々になるようにしたらいいんじゃないかな」
「あ、そっかー! こう?」
「そうそう。段々数を減らして小さくしていけばいいよ。んでね、途中でこういうブロック使って柱にすれば大きくしやすいよ」
瞬くんは素直にふんふんと頷いてかちゃかちゃとブロックを重ね合わせていく。
俺はあまり創造性のあるタイプじゃないから、どこからどう着手していいのかよくわからないんだよな。瞬くんはとりあえず見切り発車に縦長のものを生成していたらしい。
一応お手本の写真は撮ってきたけど、でも自分で作り方を模索するのは大事だよな、と俺は瞬くんの試行錯誤を見守る。
あ、そうだ、と思いだし、声を潜めて瞬くんに話しかける。
「……そういえば、瞬くんありがとね、ママへのプレゼント、いいの見つけてくれて」
「それっておひめさまのやつー?」
「そうそう。あそこにあったのはママは恥ずかしがっちゃってたから、似たようなやつでママに似合うの探してみるよ」
「いいよー! しゅんはママのこといちばんよくしってるからねえ、なんでもきいたらいいよ」
「恐れ入ります……」
瞬くんは一切小声で喋ってはくれなかったけど……、まあこれだけで話の内容はわかるまい。
よかった。ここで瞬くんが、自分が選ぶ! と言い出したらまた一波乱起こるところだった。一人で瞬くんを連れて雑貨屋巡りというのはさすがにまだ勇気がでない。
これ、もっとやんちゃで人見知りしない子供だったらもっと大変だったんだろうな……と思うと世間のお母さんお父さんには頭が下がる気持ちだった。
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それから数日、何日かかけて仕事のあとお店を巡り、なんとかこれはよいのではないか、というものを見つけた。
ネットであれこれ調べ、店員さんにも外でつけても恥ずかしくないものなのかなど聞きまくった。だって、千紗がお化粧のときに髪を上げるときに使うヘアバンドというのも似たような雰囲気をしていたし、俺がおしゃれだと思っていたら実は一般的には外でつけるものじゃありませんでした、なんてことになったら千紗に恥ずかしい思いをさせてしまうからな。
雑貨屋の中をじっくり見てみると女性向けのアイテムというのは、家の中で使うだけのものでもやたらに見た目が凝っていて、なにがなんやらだった。まあ、わかるわけないんだけど。
しかし、悩んだおかげでそれなりにセンスの良さそうなものが選べたと思う。
実際に千紗がつけた姿を見てみないとわからないが、安っぽい感じではないし、かといって主張が激しいわけでもない。千紗がよく着る服とも喧嘩しないはずだ。
うきうきした気持ちを千紗に悟られないよう、必死に表情に気をつけながら数日を過ごした。