10章
図書館の棚一段を二ヶ月かけて制覇した。
メモを取りながらなので思ったよりも時間がかかってしまった。とはいえ、学校生活とバイトを両立させながらのこの進行度は我ながら結構なハイスピードだと思う。
当然ながら知らない用語が飛び交うため、ひとつの本を読むのに他の本やネットでの検索が必要で、まるで外国語を解読しているような気分になった。面白い。たまらないな。
そしてその勉強の成果もあった。
地域によって当然気候は違うし、それが俺たちのような性質の人間にとっては気候の合う合わないは健康寿命に直結するわけだが、住みにくい地域ほど田舎の風習などが根強く残っていることが多い傾向にある、というような記述を見つけたのだ。
まだ特殊能力者が現れてから100年ほどしか経っていない。それにその数も昔はもっとずっと少なかった。それなのに風習との関連性があるのは不思議に思える。もしかするともっと古くから特殊能力は存在したのではないか、もしくは特殊能力という形で存在していなくともその前身となるような体質自体は存在していたのではないか……みたいな切り口の話だった。
まあそれによると、例えばうちの祖母のように意固地になって自分の住む場所に固執するのも厳しい環境の田舎にはよく見られるらしい。廃れつつある故郷を存続させようっていうのは誰でもありうる感覚かもしれないけどさ。でも自分の子供の命がかかってるっていうのに守るようなことでもないだろとは思っていたので、そう言われてみると納得できるような……気もしなくもない。
その本曰く、寿命を延ばそうというのは人間のエゴであると。例え一般人の半分ほどの年齢までしか生きられなくともそれはそういう寿命の生物なのだから、手を加えるべきではない、という考え方らしい。その考えから派生した宗教もあるそうだが、それは横においておく。
当事者である俺からすると人間のエゴ大歓迎。エゴ万歳! だけどな。対策できることを怠るのは理解不能だ。
しかし短い寿命には短いなりのペースっていうものがある。それを無理に引き延ばしたりせず、その生命としての適切なタイミングを守るのが子孫繁栄には大事だとされているわけだ。
子供時代の成長は人よりも遅く、大人になってから死ぬまでが早いとなると生殖に適した時期も18頃から23あたりとほんの僅かであるそう。俺はどんぴしゃりだったわけだ。当然人によるが、特に環境が体に適していない場合はこれ以上の年齢になるとガクッと子孫を残す割合は減るらしい。うちの父のようにすぐに死ぬってことは早々ないにしても、やはり子作りどころではなくなるんだろう。
若い内に子供を作って、数年で死んで、残った子供をお嫁さんや母親が大事に育てる……というのがベストの形らしい。死ぬまでの間父親はどんどん弱っていくからそちらの介護も必要ということで、周りの支えは不可欠なのだ。
とはいえ相手がいなければ子供は作れないわけで、二十歳前後なんてまだ経済力もない世間的には子供だ。代わりに親や親戚が結婚相手を探すという風習が、現代でも続いているのだとされている。
もちろん全国的には親の紹介で結婚するとかは少数派だ。っていうか、探すのは勝手だが、女性側がわざわざ田舎に好きでもない相手の元に嫁ぎに行くような時代じゃないよな。恐らく近い未来廃れてしまうんじゃないだろうか。
田舎で同じような状況だったうちの両親も恋愛結婚だし。でも母がいなかったらそれはそれで祖母は相手の女性の目星はつけていたらしいというのは、親戚との会話で聞いたことがある。俺の相手も探してくれないかなーと昔は思ったものだ。
しかし閉鎖的な田舎でそういった風習が残っていると、特に体質的には問題のない人間も当然のように同じ価値観で育つ。つまりあるところでは当然のように受け入れられている文化なのだ。
個人個人の特殊能力の有無はそこではもはや関係ない。客観的にデータを取ってみると、この体質で子孫を残すのに適したシステムになっているだけで、本人たちは家庭によらずそういうものだから、と習わしに則っているらしい。まあ、そういうもんだよな、しきたりとかって。
以上が俺のまとめである。これは大収穫ではないだろうか?
親が結婚相手を探すって何時代だよと思っていたが、まさか自分の体質と密接に関わっているとは思わなかった。
そしてそんな土地であれば近くにセンターも作ることはできないだろう。しかし今の時代であれば定期検診なんかでその体質を指摘される機会はいくらでもある。そういう場合、一番はその土地を離れるべきなのだが……それを許さない土地であったら、子供の長期休暇のときだけセンターに入院するとかそういう手を使うのかな。
ネットの発達で情報が行き渡るようになったのもあるし、テレビでも取り上げられるようになったこの時代で、父のように何も治療をしない……というのは少数だと信じたい。そこに関する記述はいまのところ確認できなかったけど。
とにかく、大きな前進である。
田舎の風習なんてネットで探してもなかなか見つかるもんでもないだろうけど、厳しい環境、というのは数値化できる。闇雲に探し回るよりずっといい。
大学に入ってこんなすぐに重大な事実に気づけるなんてな。受験勉強頑張った甲斐があったってものだ。
……まあ、土地柄とか風習とか一切関係なく、ただ嫁の来手がなくて親が世話を焼いているだけという可能性も全然あるけど……。
都合のいい情報が出てきたからって、視野狭窄にならないように気をつけないとな。
メモを取りながらなので思ったよりも時間がかかってしまった。とはいえ、学校生活とバイトを両立させながらのこの進行度は我ながら結構なハイスピードだと思う。
当然ながら知らない用語が飛び交うため、ひとつの本を読むのに他の本やネットでの検索が必要で、まるで外国語を解読しているような気分になった。面白い。たまらないな。
そしてその勉強の成果もあった。
地域によって当然気候は違うし、それが俺たちのような性質の人間にとっては気候の合う合わないは健康寿命に直結するわけだが、住みにくい地域ほど田舎の風習などが根強く残っていることが多い傾向にある、というような記述を見つけたのだ。
まだ特殊能力者が現れてから100年ほどしか経っていない。それにその数も昔はもっとずっと少なかった。それなのに風習との関連性があるのは不思議に思える。もしかするともっと古くから特殊能力は存在したのではないか、もしくは特殊能力という形で存在していなくともその前身となるような体質自体は存在していたのではないか……みたいな切り口の話だった。
まあそれによると、例えばうちの祖母のように意固地になって自分の住む場所に固執するのも厳しい環境の田舎にはよく見られるらしい。廃れつつある故郷を存続させようっていうのは誰でもありうる感覚かもしれないけどさ。でも自分の子供の命がかかってるっていうのに守るようなことでもないだろとは思っていたので、そう言われてみると納得できるような……気もしなくもない。
その本曰く、寿命を延ばそうというのは人間のエゴであると。例え一般人の半分ほどの年齢までしか生きられなくともそれはそういう寿命の生物なのだから、手を加えるべきではない、という考え方らしい。その考えから派生した宗教もあるそうだが、それは横においておく。
当事者である俺からすると人間のエゴ大歓迎。エゴ万歳! だけどな。対策できることを怠るのは理解不能だ。
しかし短い寿命には短いなりのペースっていうものがある。それを無理に引き延ばしたりせず、その生命としての適切なタイミングを守るのが子孫繁栄には大事だとされているわけだ。
子供時代の成長は人よりも遅く、大人になってから死ぬまでが早いとなると生殖に適した時期も18頃から23あたりとほんの僅かであるそう。俺はどんぴしゃりだったわけだ。当然人によるが、特に環境が体に適していない場合はこれ以上の年齢になるとガクッと子孫を残す割合は減るらしい。うちの父のようにすぐに死ぬってことは早々ないにしても、やはり子作りどころではなくなるんだろう。
若い内に子供を作って、数年で死んで、残った子供をお嫁さんや母親が大事に育てる……というのがベストの形らしい。死ぬまでの間父親はどんどん弱っていくからそちらの介護も必要ということで、周りの支えは不可欠なのだ。
とはいえ相手がいなければ子供は作れないわけで、二十歳前後なんてまだ経済力もない世間的には子供だ。代わりに親や親戚が結婚相手を探すという風習が、現代でも続いているのだとされている。
もちろん全国的には親の紹介で結婚するとかは少数派だ。っていうか、探すのは勝手だが、女性側がわざわざ田舎に好きでもない相手の元に嫁ぎに行くような時代じゃないよな。恐らく近い未来廃れてしまうんじゃないだろうか。
田舎で同じような状況だったうちの両親も恋愛結婚だし。でも母がいなかったらそれはそれで祖母は相手の女性の目星はつけていたらしいというのは、親戚との会話で聞いたことがある。俺の相手も探してくれないかなーと昔は思ったものだ。
しかし閉鎖的な田舎でそういった風習が残っていると、特に体質的には問題のない人間も当然のように同じ価値観で育つ。つまりあるところでは当然のように受け入れられている文化なのだ。
個人個人の特殊能力の有無はそこではもはや関係ない。客観的にデータを取ってみると、この体質で子孫を残すのに適したシステムになっているだけで、本人たちは家庭によらずそういうものだから、と習わしに則っているらしい。まあ、そういうもんだよな、しきたりとかって。
以上が俺のまとめである。これは大収穫ではないだろうか?
親が結婚相手を探すって何時代だよと思っていたが、まさか自分の体質と密接に関わっているとは思わなかった。
そしてそんな土地であれば近くにセンターも作ることはできないだろう。しかし今の時代であれば定期検診なんかでその体質を指摘される機会はいくらでもある。そういう場合、一番はその土地を離れるべきなのだが……それを許さない土地であったら、子供の長期休暇のときだけセンターに入院するとかそういう手を使うのかな。
ネットの発達で情報が行き渡るようになったのもあるし、テレビでも取り上げられるようになったこの時代で、父のように何も治療をしない……というのは少数だと信じたい。そこに関する記述はいまのところ確認できなかったけど。
とにかく、大きな前進である。
田舎の風習なんてネットで探してもなかなか見つかるもんでもないだろうけど、厳しい環境、というのは数値化できる。闇雲に探し回るよりずっといい。
大学に入ってこんなすぐに重大な事実に気づけるなんてな。受験勉強頑張った甲斐があったってものだ。
……まあ、土地柄とか風習とか一切関係なく、ただ嫁の来手がなくて親が世話を焼いているだけという可能性も全然あるけど……。
都合のいい情報が出てきたからって、視野狭窄にならないように気をつけないとな。