7章
今年のクリスマスプレゼントは日記帳だった。
鍵付きの、かなりいかついやつだ。シャーペンなんかじゃなくて、ちゃんと万年筆なんかで書かないといけないような気がする、そういう堅苦しいのだ。
たしかにこういうの、うちの両親は好きなんだだよな。雪も滅多に降らない地域なのに、わざわざ本格的な暖炉を家に取り付けるようなタイプの人たちだし。
俺はというと、まあ見る分には洒落てていいけど、日記をつけろと言われるとなかなか困る。
あんまり赤裸々に書くと、俺の死後なんかに身内に見られたら成仏できなくなるだろうし、かといって当たり障りない内容ならわざわざ書き留める必要性を感じない。
うーん、私情を挟まず出来事だけ書けば、そのときの感情とかは呼び起こされるだろうし、他人からはわからないか……。
……いや、出来事だけだとしても、佐伯とホテルに泊まった、なんてことは書ける訳ないし。めちゃくちゃ可愛い下着を着てきてくれて興奮したとか書ける訳ないし。
…………まあ、短めにまとめればいいか。昨日だったら佐伯とプレゼント交換をした。とか、そのくらいで。
俺の記憶力だったらそれだけで昨日の夢のようなひとときの思いではすぐに呼び起こせるよな。
俺はほんの数行だけ使って昨日のことを書いておいた。
それから、続けて今日の分を綴る。
この日記帳は中身は普通のノートのように罫線だけになっている。一日がこの長さなら、数年分は持ちそうだ……。……まあ、無理に毎日書く必要はないよな。
今日は夕暮れに母親の運転で佐伯を迎えに行った。佐伯は車に乗り込むときは緊張していたし、ぎこちない敬語なんて使っていた。が、すぐにいつもの佐伯に戻ってうちの母親にひっきりなしに話しかけていた。
そして母親が何日もかけ、俺も無理矢理手伝わされた内装をくるくると見て回り、遊園地に連れ出された子供のようにはしゃいでいた。
やっぱり佐伯は、喜んでいる姿で人を喜ばせるのがうまい。頑張り甲斐というものがある。
俺だっていつもおいしいとかすごいとか言っているんだけど、どうしても表現するのがへたくそだ。うちの父親もそういうのが苦手だから、これは家系なのだ。
でもそのせいか、母親は佐伯の喜びっぷりが可愛くて仕方ないようだった。
佐伯が男だったときも、何度かうちに泊まっては料理を褒めたりしていい気分にさせていたが、佐伯も女子になってからはよりリアクションが大きくなった気がする。
そうしてデザートも食べて、少し自室で話をして、九時頃に母親の車でまた和泉家に送った。
帰り際には母親は佐伯にずっといてほしい、一家に一台ほしいと駄々をこねていたくらいべた褒めだった。
よかったと思う。佐伯のことだから今更母親に抵抗もたれる心配は一切してなかったけど、佐伯本人はもっと遠慮したり気を遣ったりするかなと思ったから。いつも通りの佐伯で安心した。
正直もう俺はおねむだ。
この二日間佐伯を堪能できた。
俺は女子を目の前にしたらふわふわした気持ちになるけど、実際のところ、あんまり愛情深いタイプではないと思っていたし、恐らく誰かと付き合っても、きちんと向き合えなくてすぐダメになるんだろうと予感していた。人との付き合い方というものが俺はまだまだ未熟なのだ。
ちゃんとデートしたり、話しかけたり、気遣ったりする自分の姿はどうしても想像できなかった。今も自分で自分が信じられない。
うん、でも、佐伯だからだろうな。普通の女子相手じゃこうはいかないだろう。
もしも河合さんとつき合えたって、きっとろくに手も繋げなかっただろう。まあ、佐伯とも別にデート中繋いだりなんてしないけど。
椅子の上で伸びをする。
そろそろ寝よう。夜更かししてしまったけど、明日も休みなんだからいいよな。
冬休みだ。次はいつ佐伯に会えるだろう。
そう思うと、起きるのが楽しみだった。
鍵付きの、かなりいかついやつだ。シャーペンなんかじゃなくて、ちゃんと万年筆なんかで書かないといけないような気がする、そういう堅苦しいのだ。
たしかにこういうの、うちの両親は好きなんだだよな。雪も滅多に降らない地域なのに、わざわざ本格的な暖炉を家に取り付けるようなタイプの人たちだし。
俺はというと、まあ見る分には洒落てていいけど、日記をつけろと言われるとなかなか困る。
あんまり赤裸々に書くと、俺の死後なんかに身内に見られたら成仏できなくなるだろうし、かといって当たり障りない内容ならわざわざ書き留める必要性を感じない。
うーん、私情を挟まず出来事だけ書けば、そのときの感情とかは呼び起こされるだろうし、他人からはわからないか……。
……いや、出来事だけだとしても、佐伯とホテルに泊まった、なんてことは書ける訳ないし。めちゃくちゃ可愛い下着を着てきてくれて興奮したとか書ける訳ないし。
…………まあ、短めにまとめればいいか。昨日だったら佐伯とプレゼント交換をした。とか、そのくらいで。
俺の記憶力だったらそれだけで昨日の夢のようなひとときの思いではすぐに呼び起こせるよな。
俺はほんの数行だけ使って昨日のことを書いておいた。
それから、続けて今日の分を綴る。
この日記帳は中身は普通のノートのように罫線だけになっている。一日がこの長さなら、数年分は持ちそうだ……。……まあ、無理に毎日書く必要はないよな。
今日は夕暮れに母親の運転で佐伯を迎えに行った。佐伯は車に乗り込むときは緊張していたし、ぎこちない敬語なんて使っていた。が、すぐにいつもの佐伯に戻ってうちの母親にひっきりなしに話しかけていた。
そして母親が何日もかけ、俺も無理矢理手伝わされた内装をくるくると見て回り、遊園地に連れ出された子供のようにはしゃいでいた。
やっぱり佐伯は、喜んでいる姿で人を喜ばせるのがうまい。頑張り甲斐というものがある。
俺だっていつもおいしいとかすごいとか言っているんだけど、どうしても表現するのがへたくそだ。うちの父親もそういうのが苦手だから、これは家系なのだ。
でもそのせいか、母親は佐伯の喜びっぷりが可愛くて仕方ないようだった。
佐伯が男だったときも、何度かうちに泊まっては料理を褒めたりしていい気分にさせていたが、佐伯も女子になってからはよりリアクションが大きくなった気がする。
そうしてデザートも食べて、少し自室で話をして、九時頃に母親の車でまた和泉家に送った。
帰り際には母親は佐伯にずっといてほしい、一家に一台ほしいと駄々をこねていたくらいべた褒めだった。
よかったと思う。佐伯のことだから今更母親に抵抗もたれる心配は一切してなかったけど、佐伯本人はもっと遠慮したり気を遣ったりするかなと思ったから。いつも通りの佐伯で安心した。
正直もう俺はおねむだ。
この二日間佐伯を堪能できた。
俺は女子を目の前にしたらふわふわした気持ちになるけど、実際のところ、あんまり愛情深いタイプではないと思っていたし、恐らく誰かと付き合っても、きちんと向き合えなくてすぐダメになるんだろうと予感していた。人との付き合い方というものが俺はまだまだ未熟なのだ。
ちゃんとデートしたり、話しかけたり、気遣ったりする自分の姿はどうしても想像できなかった。今も自分で自分が信じられない。
うん、でも、佐伯だからだろうな。普通の女子相手じゃこうはいかないだろう。
もしも河合さんとつき合えたって、きっとろくに手も繋げなかっただろう。まあ、佐伯とも別にデート中繋いだりなんてしないけど。
椅子の上で伸びをする。
そろそろ寝よう。夜更かししてしまったけど、明日も休みなんだからいいよな。
冬休みだ。次はいつ佐伯に会えるだろう。
そう思うと、起きるのが楽しみだった。