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7章

 期末テストが終わり、もうじき二学期が終わる。周囲の雰囲気はすっかり師走らしく、どこか落ち着かない慌ただしさがある。
 俺はというと未だにプレゼントをどうするか悩んでいた。
 登校のバスで揺られながら唸っていると、バスが停車し、隣の席に河合さんが乗り込んできた。

「おはよう桐谷」
「おはよう」

 河合さんの顔はマフラーと髪の毛に埋もれて全体的にモコモコしていた。まだ冬も序盤だというのにこの完全装備、ちゃんと越冬できるんだろうか。

「最近佐伯は忙しそうね」
「ああ……忙しいっても、パーティーとかでしょ? 楽しそうでなによりだよ」

 なにやらクラスの声のでかい女子たちを中心として、盛大なクリスマスパーティーを催すらしい。佐伯は当然そのメンバーの一員で、河合さんは当然その仲間には入っていない。これだけ聞くと切ないけど、河合さんからすると余計なお世話だろう。
 話によると、どこかの部室を使って飾り付けしたり、ケーキを焼いてきたり、結構手が込んでいるらしい。24日は大掃除で全ての教室が点検されてしまうので、23日の放課後に催すという段取りらしい。
 佐伯はその飾り付けの準備をみんなでちょこちょことやりながら、どうやら他にも近所の子供会と、あと他の何かの施設なんかの子供を対象としたパーティーの準備にも加わっているらしいのだ。ボランティアというやつだ。
 どこでそういうコネを見つけてくるのか、リースを作ったり小さいツリーを作ったり、なんやかや内職のような仕事を持ってきてごそごそとやっている。
 和泉に聞くと、これは毎年恒例のことらしい。佐伯の家は親の仕事の都合もありクリスマスなどのイベントをいちいち祝ったりしない。しかしそういうのが好きな佐伯はよその集まりに首を突っ込んでいたらしい。いつの間にか、いろんな集団に正式に属していないものの、助っ人的ポジションになっているんだそうだ。
 しかし今年はイブと当日にあるパーティーは欠席で、日にちをずらしたイベントにしか参加していないと佐伯自身が言っていた。や、やっぱりもしかして俺のために空けてくれているんだろうか。25日はうちで食事する予定だけど、24日はどうしよう。
 と、楽しみなことだけを考えてもしょうがない。今日は22日。もう目前だというのに未だにプレゼントは決まっていなかった。
 佐伯が忙しく構ってくれないのでいくらでも考える時間はあった。それなのにこの有様だ。

「ねえ……桐谷って、プレゼントとか思いつかない人よね?」

 ため息混じりの河合さんの声で現実に引き戻される。いや、なんだって?

「それは、もちろん、今まさに頭を悩ませているよ。河合さんも?」

 河合さんは前の席の背もたれをぼんやり見つめながらこくりと頷く。

「和泉とね、プレゼント交換する約束なの」
「へ、へえ~そうなんだ」

 河合さんは言ってから、あ、と気づいたようにこちらを見る。

「別に桐谷たちに黙ってこっそりするつもりじゃなかったのよ? ただ二人を邪魔したらよくないかなって和泉と話し合って……わたしたちも二人で過ごしましょってなっただけなの」
「じゃ、邪魔って、な、なんのことだろうな……」

 俺たちそんな気を使われるような仲じゃないのになあ……お、おかしなこと言うなあ……。

「佐伯にアドバイスして貰おうと思ったんだけど、忙しそうでしょ? そしたらとうとうこんな目前になってまで決まらなくて……」
「な、なるほどね……俺もまったく同じだよ。和泉に聞いたんだけどね、あんまり考えがまとまらなくて」
「あら。なんでわたしには聞かないのよ」
「それはお互い様じゃん……」

 多分河合さんも俺に聞いたって無駄だと判断したんだろう。賢明な判断だ。

「あまり高価なものは向こうも困るでしょ? 手作りの物も大したもの作れるわけじゃないから気を使わせそうだし……。これなら事前に予算を決めておくんだったわ」
「なるほど……そういう作戦もあったのか……」

 たしかに片方が安すぎても高すぎても気まずいだろう。かといって手頃な価格というのもいまいちわからないし……。きちんと上限を決めておけばよかったんだな……。
 まあ、そもそもプレゼント交換をするという予定でもないのだが。俺が一方的に贈りたいだけなのだ。

「和泉に、ちゃんと雑貨屋に行って考えろって言われたよ」
「なるほど……。目的が定まってなくても現場で考えろってことね」

 俺たちはどうにも自分の頭の中でどうにか結論を出そうとしてしまう癖があるらしい。だって、体を動かすのは大変なんだ。疲れるし。その点頭を動かすのにコストはかからない。

「桐谷放課後用事ある? 一緒に見に行かない?」
「えっ? 特に予定はないけど……」

 たしかに、見に行けと言われつつも一人で繰り出す勇気がなくて行きそびれてはいたのだ。どうにもクリスマスムードたっぷりな元気のいい店内に圧倒されてしまい、向かいの全然関係ないドーナツ屋に入ったりしていた。お腹が膨れる以外なんの収穫もないのに金だけがなくなっていって虚無感に包まれるのだ。
 むしろ今日和泉を誘おうか悩んでいたところだった。あいつはあれで騒がしいのが苦手だから、パーティーだのの予定もなく暇そうだからな。
 しかしあいつはデリカシーに欠けているというか、下手に突っ込んだこと聞いてきたりして、佐伯とのことを隠している身としてはなかなか気まずいところがある。その点河合さんは余計なことなど聞いてこないから安心できる。

「うん、じゃあそういうことなら一緒に行こうか」
「わかったわ。……佐伯に断っておいた方がいいかしら?」
「え? なんで?」
「なんでって……」

 河合さんは言葉を濁しながら首を傾げる。
 その佐伯へのプレゼントを買いに行くのだから、本人にはあまり知られたくないんだが……。

「そう。いいなら、別にいいのよ」
「うん」

 河合さんと二人で出かけるなんていつぶりだろう。二学期のはじめにデートしたとき以来だろうか。
 でもあのときと違って極度のドキドキや緊張感はない。河合さんとつき合えるんじゃ……とかあわよくば……なんて展開を期待しないですむのは思いの外楽だった。
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