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6章

 土曜日。俺は当然のように佐伯と会う約束をしていた。
 今日はカラオケか、デートらしくウィンドウショッピングでもしてみるか、などと考えていると目の前に見覚えのある車が停まり、中から声をかけられる。

「流くんやっほー! 久しぶりー!」
「お、あっ、お、お久しぶりです……」

 太陽みたいな笑顔。そして金髪。
 オーラというものがある。人の目を引きつけるどこかキラキラした人。相変わらず裕子さんは、人の記憶に残る人だった。
 助手席にはちゃっかり佐伯が座っている。

「あ、ごめん! お姉ちゃんいるって伝えるの忘れてたー」
「え! ごめんね、流くんびっくりしたよね。今日は裕子もいまーす!」

 お姉ちゃん? 佐伯は確かにそう言った。
 そして裕子さんもなんの疑問も違和感も持っていない。
 とにかく、誘われるがまま車の後部座席にお邪魔した。

「ごめんねえ、狭いけどそこ座ってね。あ、足下気をつけてね。踏んで大丈夫だからね」
「は、はい」
「ねっ桐谷、すごいでしょ! これ全部売るの。いくらになると思う?」

 助手席から体をねじってこちらを向いた佐伯は、わくわくするような顔で後部座席にみっちり積まれたダンボールを指し示した。
 まるで引っ越しでもするのかというような荷物である。

「友也くん、本当に全部売っちゃっていいの? 使えなくっても思い出として残しておけばいいのに……」
「いいのいいの、埃被ってるより使ってもらった方がいいよ~」

 佐伯と裕子さんがきゃっきゃと明るく言葉を交わしている。まるで本当に仲のいい姉妹のようだ。
 佐伯は裕子さんの前では緊張して全然喋れなくて、俺は毎回普段通り話せばいいのにと思っていた。そうすれば佐伯に不快感を持つような人なんてそうそういないのにな、と。
 想像していた光景が目の前に広がっていた。……それはかつて想像していたときとは形が変わっているけど。

「ほんとにこれ、全部佐伯の持ち物なの? すごいね」
「そーだよ~、これでも使い潰したやつは除けたんだから、恐ろしいよね~。うちお金だけはあるからさ~。クリスマスとか誕生日とかはないかわりに、一年中買ってって言ったら大体買ってもらえるんだよね」

 足下から天井まで、段ボールや荷物で埋まっている。
 見えるだけでもローラーブレード、ギター、バットにグローブ、バドミントンのラケットに、靴の箱もいくつかある。それから男物の古着。大きなぬいぐるみ。

「あ、なんか欲しいのあったら持ってっていいからね」
「う、ううーん」

 そう言われるとせっかくだから何か欲しくなるが、スポーツはできないし、ちょっとした思い出の品になりそうなものもない。服だって俺には大きいしな……。
 ローラーブレードはちょっとやってみたいけど、多分この中でも高額が期待されていそうだ。

「じゃ、じゃあルービックキューブと知恵の輪を頂こうかな……」
「こんなときまで頭使いたいの!?」
「う、うるさいな。第一これ、一面も揃ってないじゃないか。売るときくらい揃えろよ」
「揃えられるなら売らないよー」

 減らず口を……。
 かちゃかちゃとルービックキューブをいじりながら車に揺られる。これは思ったより難関そうだぞ。
 ううーん、二面くらいならいけそうだけど……三面以上となるとなかなか……。

「それにしても裕子さんがお休みでよかったよ。あのね、未成年からは買い取ってくれないんだって」
「へえ、そうなんだ。車もなしに自力でこれだけ持って行って門前払いされるかもしれなかったのか……」
「ふふーんお姉さんに感謝していいよ!」

 佐伯が運転席を拝む。
 大人はやっぱり行動できる範囲が広いらしい。裕子さんを見ているとたまにそれを実感する。
 俺たちと同年代にも見えるくらい幼いようにみえるけど、裕子さんはれっきとした大人なのだ。二十歳なんて、きっと大人からみたら子供だし、能力者的にはまだ子供に分類されるけど、法的には大人だ。
 そうか、車があればいつでも二人きりになれるし、行きたいところにいけるのか。
 ふむ……。交通費の代わりに維持費がかかるんだろうけど、うちは田舎だしな。やっぱり大人になったら俺も車に乗るようになるんだろう。
 車で迎えにいくなんてすごくデートっぽいじゃないか。
 いや、でもそのためにはまず学校を卒業して、車を買うために働かないといけないのか。道のりは長そうだ。
 早く大人になりたいと、最近少し思うようになった。

---

「査定終わったら呼び出してくれるって」

 それまで自由行動となるらしい。
 家電や古着、他にも色んなものが所狭しと並んでいる店内で、俺は居心地悪くしていた。
 リサイクルショップというんだろうか。こういったところは殆ど入ったことがない。行くとすれば古本屋くらいなものか。
 あまりの物量に圧倒されていると、佐伯がちょっとゲーム見てくる~とスルスルと奥へ入ってしまった。
 多分俺があまりゲームに興味がないから誘わなかったんだろうが、少し心細い気持ちになってしまう。物が多すぎて迷子になった気分になるのだ。
 っていうか恋人同士なのに……デートなのに……。

「流くんはゲームいいの?」
「あ、はい、俺はよくわからなくて……」
「そっか。じゃあ適当に見て回ろっか。なにか欲しいものあるかも」

 裕子さんがにっこりと笑った。菩薩のようだ……。
 裕子さんの見た目は和泉によく似ている。かといって和泉を見ても可愛い~だなんて逆立ちしても思わないけど。でも似ている。お互いが相手のコスプレしたらもしかしたら見間違えてしまうかもしれない。
 見慣れた顔に近い上、穏やかで明るい人なので年上の女性と言っても、他の女子に比べるとそこまで緊張しない。その上喋り方なんかは佐伯によく似ているからさらに落ち着くのだ。どうやら佐伯に似ているんじゃなくて、佐伯が裕子さんの影響を受けているらしいが。
 それでもやはり、佐伯より少し女の子らしい感じが強いだろうか。きゃぴきゃぴした感じとは違うが、幼稚園の先生のような、優しい雰囲気がある。リアクションも大きいし。

「あたしお財布買い換えたいんだよね~。でもブランド物ばっかりだね」
「あまり興味ないですか?」
「そうだねえ、よくわかんないかなー。かっこいい人が持ったらいいんだろうけど、ちょっと違うでしょ?」
「確かに……」

 とは言うが、カッチリとした革製のバッグなんか持って、スタイリッシュなスーツとか、パーティードレスなんかを着ている裕子さんを想像すると、なかなか決まっているように思う。
 佐伯はどうかな? 男だった頃はスラッとしていてスタイルがよかったけど、女になったら結構小柄だったしな。バランス的には悪くなさそうだし、髪型とか顔立ちはきりっとした印象を受けるから、似合わなくはないと思うけど……。

「あ、見て。こっちのスカート、友也くんに似合いそう」
「あー、たしかに……?」

 友也くん、と男の名前が出てくるとなかなか違和感ある。

「買ったら着てくれるかな……。あたしはあんまり足出すの似合わないから……。あーでも寒いよねえ」

 うーん、と鏡を見てみたり、手に取ったスカートを見たり、吟味している。
 ふわっとしたシルエットのスカートだ。なるほど、こういうのが似合うのか。
 たしかに、裕子さんはロングスカートならみたことあるけど、基本ズボンを履くようだ。大胆に足を出す格好は見たことがない。河合さんはミニを履くこともあるけど、大体黒いタイツもしっかり身につけているし露出はあまりない。そんな二人と比べると、佐伯は生足を出すのが似合いそうだと思う。決していやらしい意味ではなくて! 細いけど健康的な足をしているしからだ。

「それにしても、佐伯と裕子さん、ほんとに姉妹みたいですよね、前まであんなにどぎまぎしてたのに……」

 裕子さんは次に帽子を眺めている。

「そーだねえ、あたしも最近は友也くんが心配で、一日休みがあればすぐこっち帰ってくるようにしてたし……、最初はぎこちなかったけど、ご飯食べたり、お話してくうちに心開いてくれるようになったんだよ~」

 ベレー帽を被って鏡を見ている。よく似合っていた。
 金髪が目立つからだろうか、それとも芸能人だからだろうか、裕子さんはよく帽子を被っている。それか単純に好きなんだろうか。
 裕子さんはでもさあ、と続ける。

「あたしが前からもっと家にいて、もっと友也くんとお話できてたら、前の友也くんともこんな風に仲良くできてたのかなあって思うと、ちょっと残念かな……」

 それはどうだろう。やっぱり、佐伯が女になって裕子さんのことを諦めたというのは大きい気がする。
 でももしその通り、男のときに今のように仲良くなれていたら、二人は付き合ったのかな。

「今の友也くんは可愛くて大好きだけどね……」

 だけどね、のあとどう続くのだろうか。
 俺は元々、佐伯と裕子さんはお似合いだと思っていた。
 二人ともスタイルがいいし、見た目も釣り合うと思っていた。性格だって優しくて楽しくて絶対ぴったりだと思っていた。幼なじみで、ずっと一緒にいるのに、どうしてあんなに距離が遠いのか不思議だった。
 それに、そうだ、なんとなく裕子さんはうちの母親に似てるような気がするんだ。あくまでも俺に優しく接してくれるからそう感じるだけかもしれないけど、家庭的で、おおらかそうなところが似てる。
 対して佐伯はどこかうちの父親に似てる。血の繋がった方の父親だ。といっても俺は写真と動画くらいしか知らないし、話に聞く感じだと理屈っぽくて面倒くさそうで、性格は似ても似つかないけど。
 うちの母親が言うのだ。佐伯が遊びにきて帰った後、喋り方とか振る舞いとかは違うけど、どこか雰囲気が似てるって。それだけ違ったらどこも似てないんじゃないかと思うけど、懐かしい気持ちになるんだそうだ。目つきの悪さのせいだろうか。
 そのときは息子の友達と禁断の関係になんかならないでくれよと思ったが、そんな事故はなく、今後もあり得ない。
 とにかく、母親がそんな適当なことを言うもんだから、俺は内心かなり二人の関係を応援していたのだ。くっつくべき二人だと。
 それが今となっては、だ。

「あ、いたいた。オレ迷子になっちゃったのかと思ったよ~」

 棚の向こうからひょっこりと佐伯が現れた。

「あ、友也くんこれ試着してみて! 絶対似合うと思う!」
「ええー!? いいけどさあ……うわ、これ古着のくせに生意気な値段してるよ」
「大丈夫、友也くんにおしゃれさせるために今日まで貯金してきたから」
「オレ服よりゲームが欲しいなあ」

 ぶつくさ言いながら試着室に押し込まれているのを見送る。
 ふと、自分が周りからどういうポジションだと思われているのか気になってきた。ちゃんと佐伯の彼氏に見えているだろうか。それとも友達にしか見えないだろうか。
 ……いや、姉妹の買い物に付き合わされている弟……かな。全然似てないけど。

「流くんもなにか欲しいものある?」
「い、いやあ、俺はあんまり……興味がなくて……」
「あ、たしかに流くん、上等な物を長く使うタイプの人でしょ? 古着とか買いそうにないよね。羨ましいよう。あたし貧乏くさいから、ちまちま色んなの買っちゃうんだよねえ」

 ただ親が用意した物を使っているだけなのだが。
 まあ、ここにある服はあまり俺が着るタイプのジャンルではなさそうだった。絶対似合わない。和泉なんかは喜びそうだ。そういう、ちょっと派手だったり、いかついような、主張の強い服が並んでいる。
 多分別のコーナーなら俺が着ても違和感のないシンプルなものも並んでいるんだろうが。
 俺の服は現状特に不足がないし、ここを見るよりすぐ横の女性用の服の中から佐伯に似合う服を探す方だ有益だ。
 手持ち無沙汰に適当に目についたものを引っ張り出してみる。

「うわこれ丈短っ!」
「ほんとだ~っ誰が着るんだろうね……」

 ただの腰巻きみたいなミニスカートを見つけてしまった。一体誰が履くんだ。しゃがんだらケツ丸出しだろ。
 佐伯がもしこんなの履いたら俺は……。……いや、案外着こなすかもしれない。ギャルっぽい服装は似合いそうだし。そしてギャルは太股に釘付けになっていたら変態扱いしてくるのだ。変態みたいな格好してるのはそっちなのに。俺のギャルに対するイメージはそんな感じだ。
 でも佐伯はそんなことしない。きっと好きなだけ見せてくれるんだ。最高だな。

「ねえー着替えれたよ~」

 妄想を募らせていると、佐伯の声とともに試着室のカーテンが開いた。
 いつの間にか上の服も渡されていたらしい、行きしのボーイッシュな格好とは違い、全体的にふわっとした薄めの生地でこう……なんていうんだ……そよ風のようなものを感じさせる……いや、ポエムが言いたいんじゃなくて……。

「わあ! 可愛い~! やっぱり似合ってるよ~!」
「ええ~、女の子っぽすぎるよ~。それに春っぽいし、今の時期にはあってないよ」
「ああ~そうだよね……春用に買っちゃう?」
「いらないいらない。春になってから買うよ」

 そうだ、春っぽいだ。春に大学生とかが着てそうな、そんな服だ。知らないけどさ。
 ミニスカートなのに、ちょっと落ち着いた雰囲気があるというか、清楚っぽいと言うか、そんな感じ。

「ね、流くんも思うでしょ?」
「え! あ、う、うん……」
「なんか微妙そうじゃな~い? やっぱオレにはズボンの方がいいよ」
「そ、そんなこと言ってないだろ!」
「でも桐谷、前もオレがスカート履いたとき微妙な反応だったじゃん」

 そ、そうだっけ……? 一体いつの話だ……? 少なくとも今は本当に似合ってると思ったのだが……。
 佐伯は裕子さんに促されて鏡の前で少し体をよじったりしたあと、すぐにスカートを翻し、また試着室に入っていった。

「ええー、もう脱いじゃうのー?」

 裕子さんの名残惜しそうな声にも佐伯は揺らがなかった。


 帰りの車内。佐伯はご機嫌だった。
 買い取り価格が予想以上に高額だったのだ。
 あれだけ持ってきて安く買い叩かれたらどうフォローしようと悩んでいたが、杞憂に終わった。

「お姉ちゃん、いくらか分け前いる?」
「そんなのいいよ~友也くんのお金だよ。大事に使いな」
「やったっ」
「何か欲しいものでもあるの?」

 裕子さんに追求されて佐伯は途端に口ごもる。

「そ、それはあ、えーっと、ほら……もうすぐクリスマスだし!」
「あっそっか、そうだねえ。お友達とプレゼント交換とかするのかな?」
「そう! そう! なんにするかまだ決めてないんだけどね」

 クリスマスか。もちろん忘れてなどいなかった。
 テレビも街中も嫌と言うほど主張して回っているし。
 佐伯はやっぱり友達とパーティーなんてするんだろうか。俺も例年通りなら家族と過ごすはずだ。
 だけどもしかしたらクリスマスデートなんてものができるのかな、とか、性の六時間とかいうやつに仲間入りできるのかな、ウフフ、とか妄想したりはしていたが、所詮妄想だ。未成年の男女が夜中に落ち合うなんて不良なことできない。
 でも大学生になったらできるのかな。実家を出たら自由だよな。あと一年と半年もしないうちに大学生だもんな。でも、そう思うと長いな……。

「ねえ桐谷聞いてる?」
「あっごめんなに!? ぼーっとしてた」
「桐谷のおうちはクリスマスにご馳走食べたりするのかなーって」
「あ、ああ。うん。母親がイベントごと好きだから……七面鳥とかも出てくることあるよ」
「うそ!? 七面鳥ってほんとにいる鳥なの!?」
「そこ!?」

 佐伯は大騒ぎである。もしかして雉や孔雀も想像上の生物だと思っていないだろうな。でもペガサスはいないんだよ、実は。
 しかし、佐伯はなにやら憧れがあるらしい。俺はあまりパーティーだの、飾り付けだの準備する雰囲気が得意ではないから、基本的に母親が一人で盛り上がっているだけなのだが……。

「さ、佐伯も食べにきても良いよ。豪華な割に、父親はいつも仕事だし、結構寂しいんだよね」
「えーっ! いいの?」

 佐伯は驚いたような顔でこちらとそれから運転席の裕子さんをちらりと見る。あれ? おかしなこと言っただろうか……。
 佐伯はうちの母親にも懐いているし、いいかなと思ったんだけど。

「あ、他に約束があるなら別にいいけど……」
「んーと、23日は女友達と集まる予定だけど……イブと当日は別に……」

 なんだ、24、25は予定ないのか。寂しい奴だな。人のことは一切言えないけど。

「いっておいでよ友也くん、今年はあたしも仕事で帰れないし、お母さんたちもお仕事休めないみたいでそれっぽいことはできなさそうだから……」
「え、ええ? でも……かおちゃんに悪いしなあ……」

 かおちゃんというのは確か和泉の妹だったか。

「かおちゃん賑やかなの苦手だし、むしろパーティーしないって聞いて喜んでたよ。あの子、プレゼントだけが目当てなんだもん」

 その子もどうやら俺側の人間らしい。
 佐伯は唇をとがらせて、ふうーんと言って、バックミラー越しに目があったと思うとすぐに逸らされる。
 最近、佐伯のこの表情をよく見かける。

「じゃあ……じゃあ行こっかな……。ちゃんとおばさんに聞いてみておいてね。だめだったらいいからね」
「うん、わかってる」

 いつもの佐伯なら、やったー行く行く! とすぐに食いついてきそうなのに、あんまり乗り気じゃないんだろうか。
 もしかしてこの前俺がひっついているのを母親に目撃されたことを気にしているんだろうか? たしかに気まずいよな……、あまり考えていなかった。
 でも嫌なら予定をでっちあげて断れるはずだし、大丈夫だよな……と考えていると裕子さんがくすくすと笑い始めた。

「友也くん、ほんとに嬉しいとき嬉しくないフリするでしょ。うーって口して」
「えっなにそれ」
「そっそんなことないよ! 普通に嬉しいよ! 普通にね!」

 普通に、をやたら強調するが、別に普通でもそうじゃなくても嬉しがってるならいいのだ。
 そうか、そんな癖があったのか。知らなかった。
 しかしそんなに喜ばれるようなことだろうか? ツボがよくわからないやつだ。

「これは張り切っておもてなししないとなあ……」
「き、気にしないでいいから……」

 待てよ? よく考えたら、クリスマスに会う予定があろうとなかろうと、恋人にはクリスマスプレゼントを用意するべきじゃないのか?
 ちらりと斜め後ろから佐伯の横顔を見て、それから財布の中身を思い返して切ない気持ちになる。上等なものが買えるほどの余裕はない……。
 そもそも、一体何を贈れば喜ぶのかまったく見当がつかないぞ。
 いかにもプレゼントらしい、女子っぽいアイテムは興味ないだろう。かといって佐伯の好きな漫画やゲームのことはよくわからないし、間違えた物を買ってしまいそうだ。
 さっき物色すればよかったな。いや、中古品をプレゼントするのはさすがによくないか?
 本人に聞いたら話は早いのだが、この流れで聞くといかにも今までなにも考えていませんでした、というように解釈されそうだ。……その通りなんだけどさ。それはさすがに佐伯も気分がよくないかもしれない。それとも普段のようにあっけらかんとしてるだろうか。
 ……まあ、プレゼントっていうのは心が大事だ。相手が自分を喜ばせようと考える気持ちが嬉しいもの、なんだと思う。
 だったらろくに考えずに楽な手を選ぶより、ちゃんと悩んだ方がいいはずだ。
 俺はそう心に決めた。
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