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1章


「本当にいいの? バレたら大変でしょ?」
「それはまあ、その時になったら説明すれば分かってくれるよ。多分……」

 山の中を二人で歩いていた。
 正確には俺の家の敷地の舗装されてない部分だ。玄関に続く道を途中で逸れて、家の裏側に回ろうとしているのである。
 家の裏は洗濯物とか、ちょっとした家庭菜園とかのスペースになっていて、日が暮れると家族は誰も寄り付かない。裏手からそこに出れば家族にはバレることなく家に近づける。
 結局俺は佐伯をうちに泊まらないかと誘った。あとで佐伯は実はそれを期待していたんだと言う。それならそうと言えばいいのに。
 深くは知らないが、佐伯の家はあまり仲良し家族ではないようで、こういう非常事態に頼りたくない面々だそうだ。
 俺からすると考えられない環境である。

「じゃあ、俺はひとまず表から帰るね。そのあと窓から迎えにくるから待ってて」
「わかった」

 佐伯は素直に頷いた。
 別れて俺は玄関に向かう。
 母親に女になった佐伯を家に泊める、と説明するのはなんだか気まずかった。
 元が男友達だっていうのを免罪符に女の子を家にあげることを母親に知られるのは、なにか、やましいものを見透かされるような気がして……。
 いや、下心みたいなっていうか、中身は男同士だし、興味あるという気持ちはわかるだろうから、ちょっと、ちょっとだけこう、好奇心を満たさせてくれるんじゃないかっていう……そういう気持ちもなきにしもあらずではあるけど……!

「お帰りなさい流ちゃん、お友達には会えた?」
「あ、う、うん!」
「……」

 沈黙。
 そうだ、いつもは特に何も考えず、誰と会ったとかどんな用事だったとか、簡単に説明するからだ。

「べ、別に大した用事じゃなかったよ。そうだ、上で電話するから、夕飯まで声かけないでね」

 追求される前に二階に逃げた。俺、隠し事下手すぎじゃないか?

 自室に入って鍵をかけた。普段はかけない。エロ動画見るときくらいしかかけない。
 絶対に怪しまれるんだろうなあ……。でも高校生になったら普通だとも思うし、なんとか触れないでほしい……。今日の夕飯時追及されそうで怖い。
 スリッパを脱ぎ、できるだけ音を立てないように窓を開けて、そっと飛び降りる。すぐに落下速度を下げて、衝撃も物音も立てないようにそうっと裏庭に降り立った。素足に地面の感触が気持ち悪い。
 その様子を見ていた佐伯は目をまん丸にした後音が鳴らないように拍手した。
 人前で隠しもせずこんなところを見られるのははじめてのことである。ちょっとだけ恥ずかしい。着地の仕方とかちょっとかっこつけてしまったし。

「えーっと……じゃあ……おんぶするよ」

 小声で指示すると佐伯は黙って頷いた。背を向けてしゃがむとすぐに顔の前に手が回される。足を抱えると思った以上に細くて、なんだか可哀想になった。女の子の足ってみんなこんなもんなんだろうか。
 立ち上がろうとして、……無理だった。
 お、重い……。
 脚力がないんだろうか……。それとも腰が弱いのか……?
 一旦降りて貰うと佐伯が憐れむような目でみてきた。やめろ。今可哀想なのはお前だぞ。俺じゃない。
 結局しゃがんだ状態から立ち上がるのは無理ということになり、正面から俺にしがみついてもらうことになった。いや、要するに抱き合うような形なんだけど、さすがに、あまりにも恥ずかしかった。
 男同士でだって恥ずかしいのに、おんぶがギリなのに。その上佐伯が嫌そうに渋るのも傷ついたし。お前のために頑張ってるんですけどね!
 でも本当に体の幅も厚みもなくて、やっぱりなんだか可哀想になった。まあ、興奮はしたんだけど。
 おっぱいは全然なかったです。

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「喋っても平気?」
「ああ、大丈夫。電話してるって言っておいたから多分不審がられないと思う」

 佐伯は安心したようにベッドに座り込んだ。
 何度も我が家には遊びに来たことがあるから、それなりに気が緩んだようだ。

「……あー、そうだ。俺の服着る? 今のよりはマシでしょ」
「え、いいの? ……あー、いや、下着ないから、大丈夫だよ」

 そうだった。いくらなんでもノーパンで人の服借りるのは気になるよな。
 でも流石に女性のパンツの調達は一生かかってもできない気がする。

「いいよ、洗えば気にならないし」
「ええっ!? いいの?」

 佐伯は驚愕して、両手を上げて驚いたポーズをした。こいつはいちいち反応が大きいのが今までイラッとしていたのだが、女子になるとそんなに気にならない。我ながら現金な話だ。
 クローゼットから少し小さくなってきた服を選んで渡す。多分ズボンもずり落ちるってことはないはずだ。ベルトで十分調整できる範囲だろう。

「ごめんね、ありがとう」

 受け取った佐伯はダボダボの服を巻き上げて脱ごうとして……止まった。

「……ちょっと……見ないでよ」
「あっすいません」

 いけないいけない。女子の着替えを覗くなんていくらなんでも……。

「え、やっぱりだめ?」
「だ、だめだよ! こんなの見せられないよ!」

 まるで気持ち悪いものかのように言うじゃないか。
 どうしよう。めちゃくちゃ興味ある。ううん、でも流石に今は動揺してるだろうし、せっかく頼ってくれたところを困らせるなんていくらなんでも哀れだ。
 普段だったらそんな気遣いなんてしないのにな。いや、非常事態だし。気を配って当然か……。

「じゃあ俺書斎行ってくる。難病とか奇病とか書いてありそうなの見つけたら持ってくるから、すぐ戻る。ノックの音は母にバレそうだから、やらないからね」
「わ、わかった」

 別にゆっくり着替えてもいいんだからねと言うと服でぶたれた。今日の佐伯は暴力的だ。
 俺は足音を消して書斎へ向かった。
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