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15章

「え……っ!? だ、脱衣所? ここじゃなくて? 俺が? いいの? ゆっくりできないでしょ」
「……あ……、ごめん……」

 すぐに顔を引っ込めてしまい、慌てて駆け寄り閉められてしまった扉を慌ててまた開ける。

「あっあのね!? 嫌ってわけじゃないんだよ!? ただ男がいたら佐伯が気をつかうんじゃないかって思って……」

 佐伯は何故か緩く笑っていた。
 視線はあわない。ただうなだれるように床か、どこでもないようなところを力なく見下ろして、口だけ少し笑っていた。
 ちょっと、様子がおかしいかもしれない。熱は高くなかったはずだけど……意識が朦朧としてたりはしないだろうか。

「……ご、ごめん、それなら佐伯から言い出すわけないよね。じゃあ、えっと、廊下に出てようか、シャワーの音聞こえはじめたら、脱衣所に入って待ってるよ、そ、それでいい?」
「いいよ、そこで」

 突然佐伯がTシャツを脱ぎはじめて、ぎょっとしながら慌てて背を向け、開けっ放しだった扉も閉める。
 後ろで衣擦れの音が聞こえて心臓がバクバクと中学生の頃のように緊張するのを感じた。そんな状況じゃないのに。
 ど、どうしたんだ佐伯……。気を許してくれてるってことなんだろうか、いや、でもそんな実感はない。
 必死でドアの木目を見つめた。
 いやいやあんまり過剰に反応するなんて、俺もう22なのになにを意識しているんだ。ただ病気で不安だからついていて欲しいってだけなんだ。うちの両親や瞬くんにこんなこと佐伯が頼めるわけないし。きっと河合さんがいれば河合さんに頼んだに決まってるのだ。
 ああ、でも、佐伯ってちょっと気持ちが不安定なときってこういうこと、誘うんだよな。初めてしたときだってそうだったし、クリスマスのときもそういう片鱗があった。あまり甘い雰囲気ばかりというより、決まって少し心の弱い部分を吐露してくれるのだ。
 ……いや、だからって今もそうだということにはならないよな。っていうか人の家でそんな行為に及ぶわけないよな。体調悪いのにそんな気起こる訳ないし。
 うん、勘違いしたらだめだ……、ただ消去法で俺に頼んでくれただけなんだ。
 浴室のドアが開いて、すぐ閉まるのが聞こえて体の力が抜ける。
 す、すぐそばで佐伯が裸になったのか……。へ、へえ~……。
 佐伯はどう思っているか知らないが、俺は好きな人がすぐそばでお風呂に入っているという異常事態なのだ。そりゃあこんな状況であってもドキドキもするさ。
 しばらくするとシャワーの音が聞こえはじめて、ようやく唾を飲み込んだ。何の音もしない中だと、俺のちょっとした動きも向こうにバレてしまう気がしたから。
 大人にはなったけど、ずっと女子との触れあいなんてなかったし、まったく経験値は増えていない。高校生レベルなのだ。は、恥ずかしい……いい大人になったくせにこんな状況でなに興奮してんだと思われたらどうしよう……。すぐそばに瞬くんだって母親だっているのに!
 もちろんこんなときにあわよくばなんて考えてないさ! でも考えなくたってドキドキはするのだ。
 磨りガラス越しにぼんやりと映る肌色がどうにも刺激的すぎるので、背中を向けて足ふきマットの上に座る。
 しばらくしてシャワーの音が止まった。

「……右がシャンプーだっけ……」
「あ、そ、そう! 黄色っぽい透明の方だよ」

 自分と同じシャンプーを使うのだと思うとやっぱりなにか少し緊張する。どう考えたって意識しすぎだな……。

「そ、そういえば、あんまり昔と髪型とか、変わらないよね、高校の時もそのくらいの長さだったでしょ」

 この前昔の写真を確認したが、前髪の長さとか髪の流し方は変わっていたけど、大きな変化はない。

「そう……だっけ? 瞬を産む前短くしたんだよ。それからは美容院行く余裕なくて、自分で長さ揃えるくらいしかできなくって……」
「そうだったんだ。短い頃の写真ってある? 想像つかないかも」

 ああでも男時代の髪型は女性のショートにはありな長さだったし、ああいう感じかな。だったら似合うか。だけど男のときの印象が強そうでやっぱりうまく想像できないな。

「……いや……写真は、撮ってないから……」
「そっか、子育てでそんな余裕ないよね」

 たしかに、俺だって今瞬くんと一緒に俺も写っちゃおうなんて余裕ないしな。そういう考えに至らないというか。これからは気をつけよう。瞬くんの成長も大事だけど、俺や佐伯だってこれからも変わっていくんだし。
 ……ってなにをこのまま人生を共に……みたいなつもりでいるんだ俺は! そりゃあ、そうなれたらいいけど!

「ほんと一人で面倒見てたなんてすごいよ、うちの母もいるのにてんてこ舞いでさ、瞬くんがしっかりしてるからなんとかなってるけど、そりゃあ体調も崩すよ」
「そんなことないよ……みんなやってることだもん……。私は要領悪いから、瞬にも苦労かけちゃって……」
「そんなこと……」

 反論はシャワーの音で打ち消されてしまった。
 みんながやってることだからって大変じゃないわけはないと思うのだが。
 それに要領が悪いっていうのも、佐伯に限ってはピンとこない。むしろ要領はかなりいい方だったはずだ。そりゃあ学生時代しっかりしてたからって家事もできるかというと別だけど、瞬くんのお世話をしているときや河合さんと料理をしていたときだって、てきぱきと昔の印象通りに動いていたと思う。
 でも、いくら人の家に厄介になって肩身が狭い思いをしているからといって謝りすぎだ。
 とにかく、異常なまでに自己評価が低いみたいだな。
 元々自信家ってほどじゃなかったけど、卑屈になるほどでもなかった。むしろそこそこ人に甘えて、ごめんよりもありがとうを多く言うやつだったのだ。そういう甘え上手な部分がうちの母はお気に入りらしかった。気持ちよく人を動かしてくれるような、そういう人だったのだ。俺は少しそういうところが羨ましかった。
 女になってから色々あって、自分に優しくできないところはあったけど、それでも人に対しては明るく居心地の良い存在であり続けていたと思う。
 しかし今の佐伯は真逆だ。あんまり恐縮するもんで、こっちもあまり世話を焼かない方がいいのかな、とかありがた迷惑なんじゃないかと不安になる。持ちつ持たれつをさせてくれない。
 そういうのは、自分の首を絞めるだけだろう。
 この四年の生活で、佐伯の甘える気持ちとか、そういう長所が潰されてしまったんだ。
 その悪い方へ頑なな考え方は、解消する方がずっと難しいことだろう。
 俺だって、優秀で幸せそうで脳天気そうな人に対して憎々しげに思ってしまう気持ちは、正当なものではないし、治した方が楽になるとわかっているのにどうしようもできていないし。
 いつの間にか頭と体を洗い終えていたらしい、ちゃぷんと湯船に浸かる音が聞こえた。
 静かになると少し不安になる。水の揺れる音が聞こえると安心する。

「……瞬に……、パパだって、教えたんだね」

 びくんと体が反応した。そうだった……もうすっかり瞬くんは俺をパパと慕ってくれている。でもこういうことは佐伯ときちんと相談すべきだったのだ。佐伯の逃げ道を塞いでしまう。

「そ、そうなんだよ、勝手にごめん。瞬くんに直接パパじゃないのって聞かれてさ……誤魔化しようがなかったんだ……」
「……そう……」

 これはどういう反応なんだろう。怒ってるのかな……悲しんでるのかな……恨んでるのかな……。

「……離婚する前ね……前の人は……瞬とあまり顔を合わせてくれなかったんだけど……、瞬にはあの人がパパだよって、教えてたんだよ」

 ちょっと聞いているとダメージを受ける話だ。
 しかし当時の佐伯は俺と再会するつもりも離婚するつもりもなかったんだから、当然の行動である。

「でも、全然だめなの、ママもばあばも言えるようになっても、絵本のパパやママのことはちゃんとわかってるのに、旦那のことは絶対パパって呼んでくれなかったんだ……」

 それは、まあ、あまり接触がなかったというのも大きいだろう。きっと自分の子供のように接してくれる人だったら、まったく違ったと思う。
 ぱしゃりと水の音が聞こえた。
 震える声が、浴室内を少し反響して漏れ出る。

「私……瞬を……桐谷からも、桐谷のご両親からも……引き離して……、全然可愛がってもくれない人を……父親だって言い聞かせて……私、私がやったこと……全部……みんなを不幸にしてる……」
「……な、何言ってんだよ!」

 思わず振り返ってそう言った。もちろん佐伯はドアの向こうで、姿は見えない。浴槽に入っているから、磨りガラス越しに確認することもできない。

「ふ、不幸なわけないよ。だって、どれだけこっちが手を尽くしても、もしこれまで瞬くんが苦しい思いをして育ってきたら、あんな風に心を許してなんかくれないよ。 お、俺だって……そりゃあ、佐伯や瞬くんと一緒にいられなかったのはつらかったけど、でも佐伯のお陰で大学で自由に勉強できたんだよ、そんなの、普通許されない、すごく贅沢なことだよ」

 少し鼻の奥がつんとした。返事はない。
 姿も声もないと途端に不安になった。すべて拒絶されている気がして、実際そうなのかもしれないけど、そのままでいるのは嫌だった。
 佐伯は泣いているんだと、見なくてもなんとなくわかった。

「……あ、開けてもいい……?」
「……」

 こんなとき、わざと俺が近づけないところにいるのはずるいと思った。俺は顔を見たかったし、慰めたいのに、端っから手段を取り上げられているのが、すごく悲しい。
 でも、ここにいてくれと言ったのは佐伯だ。
 それがどういう意味なのかはわからない。もしかしたら、ただ自分の体調が不安だっただけなのかもしれない。
 だけど、都合のいい考えでしかないけど、佐伯の精一杯のサインなんじゃないかと思ってしまうのだ。これは完全な拒絶ではなくて、俺がもっと強引に距離を近づけたら、佐伯は逃げたりなんかしないんじゃないかっていう、ちょっと危険な考え方だった。
 何度か躊躇して、ゆっくり浴室のドアを開けた。
 濡れたタイルを踏み、ソックスが湿る。
 佐伯は浴槽の中で体操座りをして、口元をお湯につけていた。驚いたり、身じろいだりもしなかった。

「汚い体だから……あんまり見ないで……」

 ぽつりと、佐伯が言った。

「汚い?」

 佐伯は視線をうろつかせ、もごもごと言いにくそうにして、ようやく口を開いた。

「……非処女のけーざんぷだから……汚くて興奮しないって……」
「……はあ? そりゃ……経産婦は非処女でしょ……。変なこと言うね……」

 そりゃまあ、例外はあるだろうけど……人工授精とか、マリア様とか。
 汚いってどういうことだよ。世のお母さんバカにしてんのか。
 佐伯は、小さく頼りなかった。

「そういうこと、何度か言われたの?」
「……」

 コクン、と佐伯は頷いて、水面が揺れた。

「汚いわけないのにね。……そういう相手はさぞ綺麗な体してるんだ?」

 佐伯の頬は涙なのか、ただの水滴なのか、濡れていた。悲壮感のある表情だったが、俺の言葉に何か思い出したのか少しだけ頬が緩んだ。

「……ううん……、あんまり……綺麗とは言えない……かな……」

 俺が笑うとつられて少しだけ佐伯も笑った。
 佐伯のびくびくしたような態度や、たまに見せる不安そうな表情の原因は、やはりそこにあったのだろう。

「それはさ……きっと自分が佐伯に、若さでも、綺麗さでも、性格の良さでも適わないから、どうにか上に立とうとして、そんな言動をとるしかできない人だったんだよ。全部ただの言いがかりだよ」

 佐伯は髪を洗った後後ろでまとめていたようだが、結びそこなったらしい、前髪の一房が顔に張り付いていたので、そっと爪の先でよけてやる。
 子供のような顔だった。高校の時と何も変わっていなかった。

「……ごめんね、きっと俺の知らないところで……怖い思いや辛い思いをしたよね」

 佐伯はぱしゃりと手で顔を洗うようにして、それから小さく首を振った。

「……自分が選んだことだから、みたいなこと考えてるんだろ」

 ちらりと目があった。どうしてわかったの? と訴えているような瞳だ。まるで瞬くんくらいの子供を相手しているような気がして、思わず表情が緩む。

「佐伯の結婚相手が、さ、まともな相手だった可能性だって、十分あったよ。ちゃんと瞬くんを可愛がって、佐伯のことも大事にしてくれる人だったら、もっと違っていたでしょ? でも、そんな人かどうかなんて佐伯には絶対わからなかった。だから、佐伯がその人を選んだんじゃないよ、その人が「そう」だったというだけなんだよ」
「……でも、最初は……もっと……普通の人だった……。私がきたせいで……おかしくなったって……」
「そんなの責任転嫁の八つ当たりだよ。だって、元々はそこの親子の問題だろ? きっと佐伯が嫁いでなくても、同じようなことは起こっていたよ」

 もちろん、俺はその家族を佐伯の言葉でしか知らないから、想像に過ぎない。でも、全くの見当違いではないはずだ。
 どうあっても抵抗もしない自分より弱い相手を罵ったり、こんなに怯えさせるような仕打ちをしていいという道理はない。

「佐伯は……瞬くんを守るために頑張ったんだね」

 驚かさないようにゆっくり手を佐伯の顔に近づけて、それからそっと頭を撫でる。しっとりと濡れていた。
 佐伯は怯えたりせず、不思議そうな目でこちらを見上げていた。それがやっぱり小さな子供みたいに思えた。昔、付き合ってすぐの頃、俺が抱きしめたり触れ合おうとしたときと同じ顔なのだと思い出した。そんなことをする意味がわからないというようなことを言っていたっけ。まだ、彼女の中には小さな子供の部分があるのだとわかった。

「……顔赤いよ。のぼせないうちに上がろう。俺出てるから」

 腕や膝で体が隠れているとはいえ、さすがにちょっと目に毒だ。一度意識するとなんだか気まずくなってきた。
 俺はそそくさと浴室を出る。とにかく、ちょっとだけでも笑ってくれたし、入浴中に乗り込んできた変態男みたいな目で見られはしなかったし、良しとしよう。
 脱衣所で待ってろとのことだったけど、やっぱりお風呂上がりに体を拭いたり髪を乾かしたりしている中、顔を逸らして同じ空間にいるのはやっぱり精神的にキツい。
 廊下へのドアを開けると、仏頂面で仁王立ちしている瞬くんがこちらを睨んでいて、思わずそのままドアを閉じた。

「パパだけずるい! ずるい! しゅんもママとおふろはいる! はいるー!!!」
「わーっごめんごめん違うよ入ってないよほらパパ服着てるでしょ!」

 雄叫びを上げられて慌ててまたドアを開けてどうどうと落ち着かせる。違いますよ! お父さんお母さん! そんな大それたことできる息子じゃありませんよ!!
 どうにか中に入り込もうとしている瞬くんを抱えてリビングに向かう。

「ママ、ちゃんと瞬くん見ててよ~!」
「あら、パパもママも中にいるからって大人しく廊下で絵本読んで待ってたのよ?」

 い、いつの間にバレてたんだ……。
 瞬くんは俺に抱えられながらぽかぽかと殴ってくる。大して痛くはないけど、割と力は強い。

「あ、あのね瞬くん、ママはさ、今ごほごほしててしんどいよね? それでお風呂に入って、倒れちゃったら危ないでしょ? だからパパが一緒にいたんだよ。瞬くんをのけ者にして仲良くしてたんじゃないんだよ」
「しゅんもいっしょにいる! ママまもるってゆったんだもん!」
「そ、そっかあ~……でも、瞬くんはまだ小さいでしょ? もしかしたらママから瞬くんに移っちゃうかもしれないから、そしたらママ悲しんじゃうよ」
「うつんないし!」

 どこからそんな自信が出てくるんだ。
 ママと一緒がいい! と地団駄を踏むのでだっこして持ち上げてみると、海老反りのようにして金切り声を上げた。
 完全に癇癪を起こしている……。こうなってはなんでもかんでも「やだ」で話が進まない。センターでちょくちょく見かけた光景である。
 母も寄ってきて遊びに誘ったりなんとか気を紛らわせようとしているがなしのつぶてだ。

「瞬、泣いてるの?」

 ぴくりと俺も瞬くんも体が反応した。
 振り返ると頭は濡らしたままの佐伯がリビングのドアから覗いていた。泣き声を聞いて、ろくに乾かさないまま出てきてしまったらしい。

「ママー!」

 暴れる瞬くんをなんとか押さえ込む。
 佐伯は咳込む口をタオルで抑えながら近づいてきて、空いた手で瞬くんの頭をそっと撫でた。

「瞬、寂しいね。こんなに離れたことないもんね。ママも寂しい」
「しゅん……ママといっしょにあそびたい……」
「うん、ママはやく治すからね。瞬が我慢してくれたおかげで、昨日よりママ元気になったよ。ママも頑張るからさ、瞬もパパたちと一緒にもうちょっと頑張れるかな? そしたらもう我慢しなくていいから、ね」

 段々と重みでずれてきてしまったので、そっと瞬くんを床に下ろす。さっきまでの勢いはなりを潜め、佐伯に飛びつくかと思ったがその場でじっと見上げるだけだった。

「でも……ママひとりだよ……」
「んーん、瞬がね、楽しそうに遊んでる声、ママのお部屋からでも聞こえるんだよ? だから大丈夫。ママ頑張れるよ」
「……わかった……」
「……ごめんね、ママが元気になったらいっぱい遊んでね。……じゃあ、お部屋戻るね」
「ああ、うん。あ、あとでドライヤー持ってくよ」
「ありがと」

 佐伯は母に向き直り、お願いしますとお辞儀してリビングを後にした。
 残された俺と瞬くんはちらりと視線が合う。
 なんとなくお互いばつが悪い。
 佐伯が言うとあっという間に大人しくなったのに、俺の言葉は何も届いていないようだった。もちろん泣いている理由が理由なので、そりゃあ佐伯の話は聞くだろうけど……。
 ……いや、まだ会って数週間なのに、父親としてきちんと対処できるわけないよな……。

「パパ……ごめんなさい……」
「う、ううん、いいんだよ。パパも、パパだけママと一緒にいてごめんね」

 若干ぎこちなさが残っているが、でもやっぱりここは俺から積極的にいかなきゃいけないよな。

「瞬くん、お庭で遊ぼうか」
「たんけん?」
「うん、探検しよう、さっきのボールとバットも持って行こっか」

 まだ涙のあとが残っているし、少しだけ大人しい気もするが、瞬くんはうきうきとした様子で準備をしはじめた。
 佐伯がゆっくり休めるように、瞬くんが安心して佐伯を待っていられるようにするのは俺の役目なのだ。
 不幸になってるわけない。佐伯が元気になったらそれをきちんと理解してもらわないとな。瞬くんと見せつけてやるのだ。
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