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12章

 二年の後期、相変わらず勉強漬けの毎日である。ただセンターでのバイトをはじめたので図書館に入り浸る時間はかなり減った。
 めぼしい書籍にはすでに目を通していたし、他に興味を引くものはいくらでもあったがそれはもはや趣味の領域だから優先順位は低い。
 それにしてもバイトしつつ自分の勉強している分野に触れられるのは本当に貴重な環境だ。仕事内容は本当にただの雑用でしかないけど。そのフロアに入れる人間が制限されているせいで、掃除とか荷物運びなどを外部の人間に頼むことができないのだ。そしてセンターの職員はそんな誰にでもできる雑用に手を回している暇なんてないので、資格だけある学生にその仕事が回ってくるのである。そして資格を持っている人の多くは四年生で現在研修やら就活やらの真っ只中だ。そのため常にこのバイトは人員不足らしい。
 まあ、やることは本当に資格なんて関係のない勉強にもなにもならないことだけど、本職の話が聞けるのはありがたい。講義では聞けない生々しい事情なんかも少しぼやいてくれるし。
 将来的にセンターで働くことになったとしても、俺が希望しているのは治療棟だ。現在出入りしているのは研究棟なので、そうなると関わりも少なくなる。同じセンター内にあるとはいえ、その2つは殆ど断絶されているそうだ。もちろん治療のために協力する必要があるのだが、その必要最低限のみらしく、その最低限の部分すらお互いそれぞれの主張というものがぶつかることが多いそうだ。それはそれ、これはこれだと思うのだが……、大人の世界も派閥ができたり私情を持ち込んだりと面倒なところがあるらしい。まあ、俺が接する職員の方々は上司に従っているだけで、別に思うところがあるわけではないそうだけど。
 そういうわけで今のうちなのだ。研究に関する知識だってあるに越したことはない。それにこういう検査結果の出し方は二度手間だからやめてほしいだとか、この部分の文句はうちに言われても困るだとか、こういうファイルの分け方をしてくれればいいのにとか、そういうちょっとした不満は覚えていたほうが良いだろう。もしかしたら俺がお願いする立場になるかもしれないし。

 そんなわけで、週に何度かセンターまで足を運ぶような日々になった。
 授業の一環でセンターに見学にも行ったのだが、みんなが初めてのセンターに目を白黒させている横で、俺は勝手知ったるだけどね、なんてドヤ顔していたがそのまま迷子になって知り合いの職員さんに連れて行ってもらったりもした。
 俺が思っているより広かった。
 恥ずかしかった。

 しかしまあ、勉強の方も順調だと思う。最近色んな先生にやたらに褒められる。やめてください、やっかまれていじめられてしまいます! と訴えたら何故かそんなまさかと笑われた。
 俺が精力的なのでこんな資格をとったら便利だぞとか、こういう手伝いのバイトを紹介するよとか、色々教えてくれるし、期待されているようなものを感じる。なんだか不思議な気分だった。そりゃあ昔は明確な目標なんてなかったけど、勉強量自体はそれほど変わっていないはずなのに。
 まあ、ありがたいことに変わりはない。結局はみんな教えたがりなのだ。聞いたら聞いたこと以上のことが返ってくる。最高の環境と言えた。

 ところで、二年の終わり頃、筒井さんにいい感じの男子がいるらしいという噂を聞いたのだが、そこから何故か、本当に何故か、馬場たちの間では俺が彼女に振られたという形になっているらしく無駄に盛大な慰めの会が開かれた。本当に謎だ。奢ってくれたので存分に呑ませて頂いたが。
 筒井さんとはたまーに図書館で顔をあわせる。当然館内で大した会話もしないが楽しくやっているようだ。それに関しては心から良かったと思う。

 そうして、二年生はあっという間に過ぎ去った。後半はとにかく資格取得に躍起になっていた。
 二年の終わりに自分の進みたい分野での試験を受け、合格すると三年でセンターに実習に行くことができる。
 体感だが、俺と同じ試験に合格した人は六割くらいのようだ。ここからどんどん減っていくらしいけど……。ひとまず合格した面々は実習を経て、そのまま心変わりなく三年を終えるとさらにまた試験を受ける。合格者のうちセンターに進む者と一般の病院を希望する者と別れて数ヶ月の研修を受けると、大体はそのまま研修した場所に就職するらしい。もちろん合う合わないはあるし、絶対ではないけど。研修を終えたら普通に就活して全然別の病院や施設に進むこともできるし。
 まあ、この道程は俺の場合であって、同じセンター関連の仕事であっても他の部署なら色々なアプローチはあるらしいけど。
 四年生で研修を終えて免許を取れば、まあまずセンター勤めは決まったようなものなんだそうだ。
 試験に落ちたものは浪人するか、もう少し難易度の低い部署や業種に方向転換するか、完全に諦めて普通に就職活動するか。
 もちろん俺はそんなのは眼中にない。
 このまま突き進むのみである。
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