このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

溺愛しゅかゆづ夫婦 6

 雨が嫌いだった。
 僕にとって、良いことがないから。頭は痛くなるし、妙な憂鬱に取りつかれてしまうし。
 でも、今はそうでもない。相変わらず頭痛はする。憂鬱にだってなる。けれど、そんなのは些細なこと。

「弓弦、大丈夫ですか? 寒くありませんか」
「うん。ありがとう、おかげで大丈夫」

 今日も優しい僕だけの旦那さま。
 朱夏に甘やかされるぶんだけ甘えて、彼の作ってくれたはちみつ入りホットミルクと、身を寄せあう幸福にまどろむ。
 遠くの雨音を聴きながら。



 雨が街中を洗い流していく。朱夏は弓弦からおかえりなさいのキスをされる。

 曇り空はどんよりと重たい。弓弦は朱夏と手をつなぎ、指を絡めるのはどちらともなく。

 オルゴールは奏で続ける。朱夏と弓弦はひそひそ耳もとで話し合い、内緒話に笑いあう。



  朱夏は、愛妻弁当のなかのプチトマトを眺めた。
 しばしじっと見つめ、ふいに微笑み、それを指でつまみ上げる。
 プチトマトを食べる、それだけの動作が、つくりもののように美しい。
 それが、水無月朱夏という龍神だった。

 彼は想う。最愛の花嫁のことを。
 彼女の真っ赤な瞳を呑み込んでしまえたら。
 甘くせつない空想を。



 色とりどり目を惹く駄菓子たち。これが貴方みたい、これは貴女のよう、ふたりはそればかりで幸せだ。

 朱夏は、職場や人間に対してとても冷たく、しかし愛妻の弓弦のこととなると、ついついふわふわ惚気けてしまう。


3/30ページ