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溺愛しゅかゆづ夫婦 6

 あなたは夜中に目を覚まし、あわてて真隣を見た。
 息苦しさを感じていた。心臓のあたりがどくどくと煩かった。
 そこにはあなたの最愛の夫――龍神、水無月朱夏が眠っている。
 寝顔も麗しい夫は、あなたの異変に気づいたらしく、ゆっくりと瞼をひらいた。

「んん、弓弦……だいじょうぶですか?」

 眠たそうな、ふわりととろけた声。ゆるりと伸ばされる手のひらが、あなたの頬をやさしく撫でる。
 あなたは彼の手のひらに頬をよせ、彼の手首を掴む。溺れた者が、なにかに縋りつくかのように。
 そしてあなたは息を吐いた。震えた、か細い吐息。呼吸。やっとそれを得る。息をする、ということを思い出している。

「弓弦?」
「うん……だいじょうぶ」

 あなたはなにか夢を見ていた。あまり良い夢ではなかった。しかしそれも、今はおぼろげだ。朱夏のぬくもりと声色に、あなたはずいぶん心を落ち着けている。
 こくり、と頷きつつ、ベッドと毛布のあいだを動く。あなたの求めていることを朱夏は理解し、ふっと笑んだ。

「もいちど眠れそうですか?」
「ん」

 あなたを受けいれるために、そっと広げられた腕。
 あなたは彼の胸のうちにもぐりこみ、彼に抱きしめてもらう瞬間を待っている。
 ゆるやかにおりてくる腕が、あなたが望むまま、あなたをぎゅっと包み込んだ。
 ひたすらに優しく、慈愛にあふれた力だ。

「おやすみなさい、弓弦」
「おやすみ、朱夏」

 あなたは瞼を閉じる。朱夏のおかげで、睡魔がすぐそこにあった。
 あなたは奇妙な確信を得ていた。あなたからも、朱夏をつよく抱きしめる。その腕はやはり、縋りつくかのようだ。
 きっとこの眠りに、夢は見ない。
 あなたを苛む悪い夢は、朱夏のぬくもりに追い払われ、もはやあなたを翳らすことはできない。


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