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溺愛しゅかゆづ夫婦 5

 僕たちはちょっと食に無関心だ。
 以前ほどひどくはないと思う。少なくとも僕はそう。朱夏と出逢って、結ばれて、食べることも大切なのだと知った。
 彼のおかげで、というのがとても大きい。

 龍神さまとしてずっとひとりだった朱夏も、なにかを食べたり美味しいと思うようになったのは、僕と過ごすようになってから……だそうで。
 貴女のおかげですね、なんて。よく言ってくれる。大袈裟だよとも思うし、嬉しくて胸がくすぐったくもなるし。

 つまり僕はなんの言い訳をしたいかって、
 そういうわけだから、美味しいかはわからないよってだけ。それだけのための言い訳思考。
 今日はお肉の日らしいから、おいしそうだと思われるお肉を買ってきた。晩ごはんはステーキだ。
 だけど僕はまだまだ食に疎いから、美味しく焼けるかわからないし、そもそも美味しいお肉なのかもわからない。
 そして朱夏も朱夏で、たぶん、僕が作ったご飯なら、なんでも美味しいと言ってくれるのだ。なので、油断してはいけない。

 買い物から帰って、ひと息ついた頃、朱夏から着信があった。
 出てみると、「弓弦!」って、はじめからとても弾んだ声色。

「今日の夕ご飯はステーキにしませんか。俺がばっちり美味しく作ります。焼き加減も任せてください」
「……ふふ。朱夏」
「はい、弓弦」

 僕たちは揃って食にも無関心な生き方をしていたはずなのに、どうしてこんなに息が合うのだろうね。
 こういうところまで。

「実はね、」

 笑みがこぼれる。言葉たちが、せっかちに飛び出そうとする。
 ひとつ息をおいて、ゆっくりと。僕もそう思っていたことや、そのために買い物をしたこと、そしてステーキにかけるもの――タレ? を買い忘れてしまったこと。ひとつひとつ、話をしよう。

「あはは、では帰りにタレ買ってきますね」
「うん」

 僕と朱夏は電話越しに笑い合う。
 あなたとの晩ごはん、今日も楽しみだね、って。



 弓弦はだいぶ痩せすぎで、俺はいつも心配で
 ですからたくさん貴女に食べてほしいし、貴女といろんなものを食べたいし
 今だって、電話越し、「晩ごはん楽しみだね」って明るい声を聴くと
 俺、とっても嬉しいんです。

 楽しみです、と応えながら笑い声がまざって
 ふんわり微笑む貴女の顔が目に浮かび
 今日も、当然、定時退社。確固たる意志。


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