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溺愛しゅかゆづ夫婦 5

 はっと目が覚め、寝すぎてしまったと慌てる僕を
 貴方はふにゃふにゃと笑いながら、

「ゆづる、どよーびですよ」
「……あ」

 ぎゅっと抱きしめられ、すぐさま貴方の腕の中。
 うっすらしているのにたくましい貴方の胸もと。
 ……心地いい。うつら、と、ねむたくなって
 じゃあお昼まで寝過ごしてしまおう。
 そんな幸せ。



 のんびりとした土曜の朝に慌てて目覚める貴女は今日もかわいらしい。
 でもだいじょうぶ、土曜日です。俺と、もうちょっと眠りましょう。
 おひるごはん、俺が作りますから。



 ふたりして昼までぐっすりと眠り、いよいよお腹がすいて起き上がった。
 一緒にキッチンに立ちながら、僕は思う。
 正直、朱夏の方が、料理上手だ。
 僕だって結婚以前よりかは料理に慣れたと思うけれど。朱夏は惚れ惚れするほど手際がよく、器用で、たぶんなんでも作れてしまう。

「もうすぐできますからね、弓弦」
「……うん」

 そのなかでもとびきりなのは、やっぱり朱夏特製のオムライスだろう。
 ケチャップ係の僕は、朱夏の隣でしっかり待機しながら、改めて決意した。
 ――朱夏と同じくらい。そしていつかは彼を超えるくらい、料理上手になってみせる。
 だって、悔しい話だ。僕の方がたくさん料理をするのに。朱夏になら、美味しいものをたくさん作ってあげたいと思うのに。
 その腕前が当の本人に負けているだなんて。
 それに、朱夏の本来は龍の神さまだ。人間としては(不老不死の僕はもう正確に人間ではないけど)、僕の方が長いわけで――。

「弓弦」
「ん、仕上げはまかせ――」

 ちゅっ、……と。
 とうとつの口づけに驚いて、ぽかんとしてしまう。
 朱夏はいたずらっぽく目を細め、

「ふは、ふいうちされた顔も、本当に可愛いですねえ」

 …………。
 なんて、……ああ、もう。
 かあああっと頬が熱くなっていく。

「……からかうな」
「からかってはいませんよ。愛しています」
「っ……」

 出来上がったオムライスが目前。
 そのつやつやできれいな卵の上に、ケチャップを。それが、ケチャップ係の僕の大切な役目のわけだけど。

「っ……あっ、この」
「あはは、弓弦。貸してください」
「い、いい! 僕がやる!」

 朱夏のいちいちが格好よくて、その愛情を浴びると照れくさくて、手もとが狂ってしまう。猫のひげが不思議な感じになってしまった。
 だけど僕は、『かわいいですね』とほくほくいっぱいの朱夏へ首を振り、ひとまず手先に集中した。
 肩の力を抜いて。
 このオムライスは、朱夏のぶん。だから、

『しゅかいじわる』

 ……片すみにちいさく『すき』と隠しておこう。
 僕だってやり返したい。
 朱夏はべつにいじわるのつもりもないんだろうけれど。いじわるされたと本気で思っているわけでもないけれど。

(……反対側にも書こうかな。す、……き……)

 僕の隣、めちゃくちゃご機嫌そうな朱夏のことは、しらんぷりをした。


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