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溺愛しゅかゆづ夫婦 5

 弓弦は落ち込んでいた。
 まだまだ暑い夏の日。意を決して買い物へ出かけたのだが、買い忘れがあったことに、帰宅してから気づいたのだ。
 それも、朱夏が好ましそうに食べている、デザート用のイチゴと練乳を買い忘れてしまった。
 夕食後の彼の楽しみなのに、と、弓弦をなおさら落ち込ませる要因である。
 これが例えば自分のものであれば、彼女は、『まあいいや』で終わったに違いない。

 落ち込んだ気分のまま、弓弦は朱夏ににゃいんメッセージを送った。

『ごめん、いちご練乳買い忘れた』

 だからよかったら帰りに買ってきてと書いているうちに既読がつき、

『買い物頑張ってくれたんですね、ありがとうございます』

 朱夏からの返信は、驚くほど早い。
 弓弦がまだ先の続きを送らぬうちに、朱夏からのメッセージがつづく。

『よければ後で一緒に買いに出かけませんか。夕暮れデートしましょう』

 もちろん貴女の体調がよろしければで、と。
 弓弦の体をいたわることも忘れない。
 そんな朱夏からのメッセージ。提案を眺め、弓弦はふわりと目を細める。
 書きかけの文面を消して、こう答えた。

『喜んで』

 僕の旦那さまは本当にすごいなあと、弓弦は深々息を吐いた。
 肩の力が抜けていく。落ち込んでいた自分は、あっという間にいない。
 朱夏がデートの提案をしてくれたからだ。彼は、弓弦のささやかな失敗すら、大きな幸せに換えてしまう。本来は残酷な龍の神さまであるはずだが、朱夏は常にこういうところがある。
 もちろん弓弦限定の話だ。とうの彼女は、朱夏のそれを、いまひとつ自覚していないが。

「夕暮れデート、楽しみだな……」

 弓弦のひとりごとが響くリビング。
 喜びと楽しみを滲ませた声は、ふわふわとめぐり、彼女が抱きしめるひまわり色のクッションに溶け込んでいく。

 それは弓弦のお気に入り。
 大好きな朱夏の瞳の色だ。


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