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溺愛しゅかゆづ夫婦 5

 もしも僕が黒猫になったら。
 なんて、こんな可愛げのない僕が、たくさんのひとに愛される猫相手に、失礼な空想だと思うけれど。

 もしも僕が黒猫になったら――
 まっさきに朱夏に構われに行きたい。
 この寝室の窓からぴょいっと飛びだして、朱夏の職場までとことこ歩いて、その道すがらはきっとドキドキしっぱなしだろう。
 朱夏は特別、なにかしら動物が好きなわけではないから。
 近づいてくる黒猫なんて、一瞥するかしないかで終わるんだろう。でも、僕自身は朱夏のそういうつめたさに当てられたことはない。
 だから、たぶん。朱夏にそんなことをされた日には、僕の心は面倒なことになる。いつも以上に。

 自分で近づいておきながら、相手にされないことに傷ついて。
 つめたい朱夏の態度に悲しくなりながら、普段浴びることのない新鮮みにきっとときめいて。
 そして、おそらくこう思う。――もう、もとに戻りたいな、と。
 やっぱり僕は、こんな僕でも、彼の溺愛してくれる僕でいたいから。
 黒猫のすがたでどうこうされるより、僕自身のすがたとかたちで、朱夏に構ってもらいたいから。

 ……もうひとつ。頭に浮かぶのは、
 僕が黒猫になったとして、朱夏はすぐさま僕に気づいてくれるのかも。
 どうしたんですか弓弦、って普通に話しかけてくるかもしれない。いつもみたいに微笑みかけ、頭を撫でたりしてくれるかもしれない。
 じゅうぶん有り得るなと思った。だって、朱夏は龍神さまだ。
 当然のように黒猫を僕と見抜く。……たぶん、これだなあ。

 それでもやっぱり、僕はひとのままでいいな。
 朱夏が僕を好きでいてくれるなら。
 つかの間の空想。あとで朱夏に話したら、彼はどんな反応をするだろう。
 笑い飛ばしてくれるといい。あの、純粋無垢な少年のような笑顔で。


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