溺愛しゅかゆづ夫婦 4
はっきり言おう。僕には胸がない。
もとは男性の体だったからとか、そういうことは関係ないらしい。僕を神業みたいなもので女性にしてくれた(それは僕が望んだ)朱夏いわく、『体質』。
それにしても、のっぺりすぎる。自分で自分にため息をついてしまうほどだ。僕だけならどうだっていいけれど、朱夏は僕の旦那さまで、僕は彼の花嫁なわけだし。
(もう少しくらい……)
朱夏のために、膨らんでくれないかなあ、と。
行きつけの本屋さんで、少し恥ずかしかったけれど、『バストアップ必勝法!』という雑誌を買ってみたりもした。
よせてみたり揉んでみたり。けれどまあ、やはりというのか、ちっとも効果はなく。
「弓弦、俺はそんな貴女の体も大好きですよ。だから気にしなくてもいいんじゃないですか?」
「……ないよりあった方がいいだろう」
「ふ。貴女って本当に、真面目で頑固で可愛いですね」
なんとなく軽く隠していたバストアップ必勝法の雑誌はすぐに見つかってしまったし、その上、なんだか慰められてしまった。
ムキになって言い返せば、ちょっぴり困ったな、というような朱夏の苦笑。
「……では弓弦。それ、俺のために頑張ってくれているんですものね」
ややあって、僕に語りかけた朱夏は。
そのちょっとした沈黙のあいだに、意地悪でいたずらっぽい笑みに変わっていた。
だからなに? と戸惑いがちに訊ねるよりも早く、
「これからは毎日、俺がこの手で、揉んだり寄せたりしてさしあげます。夜とはまた違って。貴女の胸が豊満になるよう、龍の気を込めながら丁寧に……むぐ」
僕は両手で彼の口を塞いだ。
かああっと頬が熱くなるのを感じる。そんなのいい、だめ、とまくし立てながら、恥ずかしくて声が上ずる。
動揺する僕の手のひらに塞がれたままの口が、ふはっと空気をあふれさせた。それは、楽しそうな笑い声。
彼はそっと僕の手を取り、その口から離す。手の手を重ね、指と指を絡ませながら、「俺は本気ですよ」と――。
「貴女の願いはなんでも叶えて差し上げたいです。そのために、俺にできることをさせてください。もちろん俺は、どんな貴女でも大好きですから」
胸は大きくても小さくてもいいんですよ。
朱夏は僕を真っ直ぐ見つめ、格好よく笑みを深める。その笑みには、意地悪もいたずらもまったくない。ただただ、真摯だ。
「……う、ん」
それだから僕はもう何も言えなくなってしまって、なんだか、何をそんなに悩んでいたんだろうという気にすらなって。
曖昧なまま頷くと、朱夏はまたやわらかい笑い声をこぼし、今度は僕を抱きすくめた。「本当に可愛いですね」と、聞いているこちらが溶けてしまいそうなほど、甘い声でぼやく。
そうして僕の、ぺたんこでのっぺりな胸の話は一旦落ち着いた。
こんなのでも、朱夏は好きだと言ってくれる。だから、まあ、いいかと。
でもどうせそのうちにまた気にしだして、悩みはじめるのだろうな。僕の心は弱いから。
そうしてまた、朱夏にうまく包み込まれてしまうんだろう。朱夏は僕を丸め込むのではなく、僕を受け容れて許してしまうのだ。
彼のあの美しく強い両腕で。僕を溺愛する、甘く凛々しい心で。
ぺたんとした僕でも。
もとは男性の体だったからとか、そういうことは関係ないらしい。僕を神業みたいなもので女性にしてくれた(それは僕が望んだ)朱夏いわく、『体質』。
それにしても、のっぺりすぎる。自分で自分にため息をついてしまうほどだ。僕だけならどうだっていいけれど、朱夏は僕の旦那さまで、僕は彼の花嫁なわけだし。
(もう少しくらい……)
朱夏のために、膨らんでくれないかなあ、と。
行きつけの本屋さんで、少し恥ずかしかったけれど、『バストアップ必勝法!』という雑誌を買ってみたりもした。
よせてみたり揉んでみたり。けれどまあ、やはりというのか、ちっとも効果はなく。
「弓弦、俺はそんな貴女の体も大好きですよ。だから気にしなくてもいいんじゃないですか?」
「……ないよりあった方がいいだろう」
「ふ。貴女って本当に、真面目で頑固で可愛いですね」
なんとなく軽く隠していたバストアップ必勝法の雑誌はすぐに見つかってしまったし、その上、なんだか慰められてしまった。
ムキになって言い返せば、ちょっぴり困ったな、というような朱夏の苦笑。
「……では弓弦。それ、俺のために頑張ってくれているんですものね」
ややあって、僕に語りかけた朱夏は。
そのちょっとした沈黙のあいだに、意地悪でいたずらっぽい笑みに変わっていた。
だからなに? と戸惑いがちに訊ねるよりも早く、
「これからは毎日、俺がこの手で、揉んだり寄せたりしてさしあげます。夜とはまた違って。貴女の胸が豊満になるよう、龍の気を込めながら丁寧に……むぐ」
僕は両手で彼の口を塞いだ。
かああっと頬が熱くなるのを感じる。そんなのいい、だめ、とまくし立てながら、恥ずかしくて声が上ずる。
動揺する僕の手のひらに塞がれたままの口が、ふはっと空気をあふれさせた。それは、楽しそうな笑い声。
彼はそっと僕の手を取り、その口から離す。手の手を重ね、指と指を絡ませながら、「俺は本気ですよ」と――。
「貴女の願いはなんでも叶えて差し上げたいです。そのために、俺にできることをさせてください。もちろん俺は、どんな貴女でも大好きですから」
胸は大きくても小さくてもいいんですよ。
朱夏は僕を真っ直ぐ見つめ、格好よく笑みを深める。その笑みには、意地悪もいたずらもまったくない。ただただ、真摯だ。
「……う、ん」
それだから僕はもう何も言えなくなってしまって、なんだか、何をそんなに悩んでいたんだろうという気にすらなって。
曖昧なまま頷くと、朱夏はまたやわらかい笑い声をこぼし、今度は僕を抱きすくめた。「本当に可愛いですね」と、聞いているこちらが溶けてしまいそうなほど、甘い声でぼやく。
そうして僕の、ぺたんこでのっぺりな胸の話は一旦落ち着いた。
こんなのでも、朱夏は好きだと言ってくれる。だから、まあ、いいかと。
でもどうせそのうちにまた気にしだして、悩みはじめるのだろうな。僕の心は弱いから。
そうしてまた、朱夏にうまく包み込まれてしまうんだろう。朱夏は僕を丸め込むのではなく、僕を受け容れて許してしまうのだ。
彼のあの美しく強い両腕で。僕を溺愛する、甘く凛々しい心で。
ぺたんとした僕でも。
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