溺愛しゅかゆづ夫婦 4
朱夏と一緒にベッドに横になったのはいいけれど、なかなか眠れない。やけに眠くならない。
理由は明白だ。僕は、夕方ごろから数時間、眠ってしまっていた。仕事帰りの朱夏を出迎えて、それからすぐ。
「大丈夫ですか? 弓弦」
「……ん」
「頭はもう痛くありませんか。くらくらしたり、吐きっぽかったりしませんか?」
「うん……大丈夫」
寝転がる僕の髪を撫でながら、朱夏は僕の心配ばかりしてくれている。
そう、僕は、頭が痛くなってしまって。そのくらいはいつものことなのだけれど、朱夏は僕を休ませてくれた。
毎日暑いし、朱夏だって仕事で疲れているだろうに。僕が起きてからのちょっと遅い晩ご飯も、朱夏がぜんぶ用意してくれたりもした。
そんなこんながあって、今もなお、彼は優しく僕を気づかい続けてくれている。迷惑ばかりで役立たずの、こんな僕を。
「弓弦」
ふわりと名を呼ばれる。そっと頬を撫でる手のひら。ゆっくりおりてくる影、くちびるに、ちゅっと軽やかであまい感触。
大丈夫ですよ、と伝わってくる。そんな口づけ。
「話でもしましょう。貴女が眠くなるまで」
どんな話が良いですか? なんて。
さも当然のように、彼の方から、お話まで聞かせてくれるらしい。
……なんでもかんでも、貰ってばかりだ。僕は。
「そんな悲しそうな顔をしないでください」
朱夏に申し訳なくて、こんな自分が大嫌いで。
ああもうせめて彼に悪いと思うなら顔に出さずひた隠すべきなのに、ただの自己陶酔だ、気持ち悪い。
こんな僕なんか、いっそ――。
「弓弦、」
窘めるような、声。
再度のくちづけと、軽く、本当に軽くやわい力で、下唇をかぷっと食まれる。こら、と言われるみたいに。
「俺は貴女を愛しているんです。ですからもっと俺に甘えて、俺に愛されてください」
「…………」
……どうして。
どうして朱夏は、こんなに、僕の気持ちを見通すのかな。
どうしてこんなにこんな僕をすくってくれるの。
じくじくと目の奥がいたい。だめだ、と思うのに、視界はぐにゃりと滲んでいく。
酷い。醜いすがただ。ほんとうに、僕は、どこまでも醜い。
――僕をやさしく抱きしめる朱夏の腕、
「大丈夫ですよ、弓弦。貴女が大好きです。落ちついたら、俺が毎日どんなに貴女が愛おしいのか、語ってもいいですか。千年かけても語り尽くせませんけれど」
っふふ、なんだ、それ。
ぐすぐす醜態をさらしながら、彼のくちびるに目端をそっと拭われながら。朱夏がやわらかい声色で言う、僕は思わず喉をならして笑ってしまう。
「弓弦」
朱夏が、安心したように。とても愛おしそうに。寝室の暗やみをも振り払う金色の瞳を細め、微笑むから。
「うん、たくさん聞かせて、朱夏」
僕が泣き止むまで、眠りに落ちるまで。千年、それを聞かせて。そしてどうか、そのさらに先も。変わらないままで。
こんな僕だけど、あいしていてくれる?
「ええ、任せてください。俺の、愛しい弓弦」
……ありがとう、朱夏、僕も、貴方がすき。
「だいすき、朱夏」
「あはは。ありがとうございます、嬉しいですよ」
いとしい僕の朱夏の胸もとに顔をうずめて、瞼を閉じる。
大丈夫、愛しています、彼がくれるたくさんの言葉たちが、僕の頭も心もからだも全部、包み込んでくれる。
彼の腕、体温、香り、鼓動、息遣い。朱夏のすべて、それらのおかげで息ができる僕を、そっと覗き込む睡魔。
ああ僕、眠くなれたんだ。どれもこれも、朱夏のおかげだ。
理由は明白だ。僕は、夕方ごろから数時間、眠ってしまっていた。仕事帰りの朱夏を出迎えて、それからすぐ。
「大丈夫ですか? 弓弦」
「……ん」
「頭はもう痛くありませんか。くらくらしたり、吐きっぽかったりしませんか?」
「うん……大丈夫」
寝転がる僕の髪を撫でながら、朱夏は僕の心配ばかりしてくれている。
そう、僕は、頭が痛くなってしまって。そのくらいはいつものことなのだけれど、朱夏は僕を休ませてくれた。
毎日暑いし、朱夏だって仕事で疲れているだろうに。僕が起きてからのちょっと遅い晩ご飯も、朱夏がぜんぶ用意してくれたりもした。
そんなこんながあって、今もなお、彼は優しく僕を気づかい続けてくれている。迷惑ばかりで役立たずの、こんな僕を。
「弓弦」
ふわりと名を呼ばれる。そっと頬を撫でる手のひら。ゆっくりおりてくる影、くちびるに、ちゅっと軽やかであまい感触。
大丈夫ですよ、と伝わってくる。そんな口づけ。
「話でもしましょう。貴女が眠くなるまで」
どんな話が良いですか? なんて。
さも当然のように、彼の方から、お話まで聞かせてくれるらしい。
……なんでもかんでも、貰ってばかりだ。僕は。
「そんな悲しそうな顔をしないでください」
朱夏に申し訳なくて、こんな自分が大嫌いで。
ああもうせめて彼に悪いと思うなら顔に出さずひた隠すべきなのに、ただの自己陶酔だ、気持ち悪い。
こんな僕なんか、いっそ――。
「弓弦、」
窘めるような、声。
再度のくちづけと、軽く、本当に軽くやわい力で、下唇をかぷっと食まれる。こら、と言われるみたいに。
「俺は貴女を愛しているんです。ですからもっと俺に甘えて、俺に愛されてください」
「…………」
……どうして。
どうして朱夏は、こんなに、僕の気持ちを見通すのかな。
どうしてこんなにこんな僕をすくってくれるの。
じくじくと目の奥がいたい。だめだ、と思うのに、視界はぐにゃりと滲んでいく。
酷い。醜いすがただ。ほんとうに、僕は、どこまでも醜い。
――僕をやさしく抱きしめる朱夏の腕、
「大丈夫ですよ、弓弦。貴女が大好きです。落ちついたら、俺が毎日どんなに貴女が愛おしいのか、語ってもいいですか。千年かけても語り尽くせませんけれど」
っふふ、なんだ、それ。
ぐすぐす醜態をさらしながら、彼のくちびるに目端をそっと拭われながら。朱夏がやわらかい声色で言う、僕は思わず喉をならして笑ってしまう。
「弓弦」
朱夏が、安心したように。とても愛おしそうに。寝室の暗やみをも振り払う金色の瞳を細め、微笑むから。
「うん、たくさん聞かせて、朱夏」
僕が泣き止むまで、眠りに落ちるまで。千年、それを聞かせて。そしてどうか、そのさらに先も。変わらないままで。
こんな僕だけど、あいしていてくれる?
「ええ、任せてください。俺の、愛しい弓弦」
……ありがとう、朱夏、僕も、貴方がすき。
「だいすき、朱夏」
「あはは。ありがとうございます、嬉しいですよ」
いとしい僕の朱夏の胸もとに顔をうずめて、瞼を閉じる。
大丈夫、愛しています、彼がくれるたくさんの言葉たちが、僕の頭も心もからだも全部、包み込んでくれる。
彼の腕、体温、香り、鼓動、息遣い。朱夏のすべて、それらのおかげで息ができる僕を、そっと覗き込む睡魔。
ああ僕、眠くなれたんだ。どれもこれも、朱夏のおかげだ。
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