溺愛しゅかゆづ夫婦 4
龍神すがたの朱夏の凛々しい背中に乗って、遥か上空から見下ろす花火。
打ち上がるところを目で追いかけるわけではない。足もとでふいにぱっと開く平たいひかり。
不思議で、見慣れない。
「弓弦、そろそろ傘を」
「うん」
持参していたビニールの傘を頭上にひろげる。
それを待っていたかのように、ぽつりぽつり、雨が降る。分厚い雲のさらに上から。雲間を滴り落ちるみたいに。
今日は毎年恒例の花火大会の日。そして、この花火大会には、毎年お決まりのように雨が降る。
地元の僕にはいつものこと。この場で永らく龍神さまである朱夏にとっても、いつものこと。
『よくわかりませんが、はしゃぐんですよ。人間がなにやら祭り騒ぎなので、雨でも降らしてやったらもっと喜ぶだろうって』
朱夏いわく、この土地の神さまたちが、人間のお祭りに乗じて降らせている、はしゃぎの雨なんだとか。
俺にあれらの気持ちはわかりませんけどね、って、朱夏は呆れたように肩を竦めるけれど。
――ざあざあ。強まる雨。
雨に打たれた花火が、煌びやかに咲いては朽ちる。
「……まあ確かに、雨が降ることまで含めて、ここの花火大会だなって」
それが醍醐味みたいなところはあるみたいだよ。
ぽつりと呟けば、朱夏は「ふうん」と。「貴女が楽しいと思うのなら意味がありますね」なんて、さらっとそういうことを言う。
ああもう貴方はいっつも僕のことばかり。花火だって興味ないんでしょう、龍のすがたの貴方の瞳は、背中の僕ばかり気にしてる。
愛されている実感に胸がくすぐったくなる。それから、すこし悔しくなる。だから、僕は言うのだ。
傘で跳ねる雨粒。こちらまで届かない花火。その雨音にも、炸裂音にも、負けないくらいの声で。
「僕は貴方と見る花火なら、晴れでも雨でも楽しいからいい」
朱夏の金の瞳がきょとんとしたのが、こちらからよく見えなくてもわかった。
いちどおいて、あははっと笑う彼は、
「貴女には本当に参りますよ」
僕は、ふふんっと、誇らしげな時の朱夏を真似した。
ざあざあ、強いはしゃぎの雨。ひかりが咲かなくなり、静かな足もと。
僕と朱夏の笑い声が、ふわふわ重なる夜の空。
打ち上がるところを目で追いかけるわけではない。足もとでふいにぱっと開く平たいひかり。
不思議で、見慣れない。
「弓弦、そろそろ傘を」
「うん」
持参していたビニールの傘を頭上にひろげる。
それを待っていたかのように、ぽつりぽつり、雨が降る。分厚い雲のさらに上から。雲間を滴り落ちるみたいに。
今日は毎年恒例の花火大会の日。そして、この花火大会には、毎年お決まりのように雨が降る。
地元の僕にはいつものこと。この場で永らく龍神さまである朱夏にとっても、いつものこと。
『よくわかりませんが、はしゃぐんですよ。人間がなにやら祭り騒ぎなので、雨でも降らしてやったらもっと喜ぶだろうって』
朱夏いわく、この土地の神さまたちが、人間のお祭りに乗じて降らせている、はしゃぎの雨なんだとか。
俺にあれらの気持ちはわかりませんけどね、って、朱夏は呆れたように肩を竦めるけれど。
――ざあざあ。強まる雨。
雨に打たれた花火が、煌びやかに咲いては朽ちる。
「……まあ確かに、雨が降ることまで含めて、ここの花火大会だなって」
それが醍醐味みたいなところはあるみたいだよ。
ぽつりと呟けば、朱夏は「ふうん」と。「貴女が楽しいと思うのなら意味がありますね」なんて、さらっとそういうことを言う。
ああもう貴方はいっつも僕のことばかり。花火だって興味ないんでしょう、龍のすがたの貴方の瞳は、背中の僕ばかり気にしてる。
愛されている実感に胸がくすぐったくなる。それから、すこし悔しくなる。だから、僕は言うのだ。
傘で跳ねる雨粒。こちらまで届かない花火。その雨音にも、炸裂音にも、負けないくらいの声で。
「僕は貴方と見る花火なら、晴れでも雨でも楽しいからいい」
朱夏の金の瞳がきょとんとしたのが、こちらからよく見えなくてもわかった。
いちどおいて、あははっと笑う彼は、
「貴女には本当に参りますよ」
僕は、ふふんっと、誇らしげな時の朱夏を真似した。
ざあざあ、強いはしゃぎの雨。ひかりが咲かなくなり、静かな足もと。
僕と朱夏の笑い声が、ふわふわ重なる夜の空。
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