このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

溺愛しゅかゆづ夫婦 4

 龍神すがたの朱夏の凛々しい背中に乗って、遥か上空から見下ろす花火。
 打ち上がるところを目で追いかけるわけではない。足もとでふいにぱっと開く平たいひかり。
 不思議で、見慣れない。

「弓弦、そろそろ傘を」
「うん」

 持参していたビニールの傘を頭上にひろげる。
 それを待っていたかのように、ぽつりぽつり、雨が降る。分厚い雲のさらに上から。雲間を滴り落ちるみたいに。
 今日は毎年恒例の花火大会の日。そして、この花火大会には、毎年お決まりのように雨が降る。
 地元の僕にはいつものこと。この場で永らく龍神さまである朱夏にとっても、いつものこと。

『よくわかりませんが、はしゃぐんですよ。人間がなにやら祭り騒ぎなので、雨でも降らしてやったらもっと喜ぶだろうって』

 朱夏いわく、この土地の神さまたちが、人間のお祭りに乗じて降らせている、はしゃぎの雨なんだとか。
 俺にあれらの気持ちはわかりませんけどね、って、朱夏は呆れたように肩を竦めるけれど。
 ――ざあざあ。強まる雨。
 雨に打たれた花火が、煌びやかに咲いては朽ちる。

「……まあ確かに、雨が降ることまで含めて、ここの花火大会だなって」

 それが醍醐味みたいなところはあるみたいだよ。
 ぽつりと呟けば、朱夏は「ふうん」と。「貴女が楽しいと思うのなら意味がありますね」なんて、さらっとそういうことを言う。
 ああもう貴方はいっつも僕のことばかり。花火だって興味ないんでしょう、龍のすがたの貴方の瞳は、背中の僕ばかり気にしてる。
 愛されている実感に胸がくすぐったくなる。それから、すこし悔しくなる。だから、僕は言うのだ。
 傘で跳ねる雨粒。こちらまで届かない花火。その雨音にも、炸裂音にも、負けないくらいの声で。

「僕は貴方と見る花火なら、晴れでも雨でも楽しいからいい」

 朱夏の金の瞳がきょとんとしたのが、こちらからよく見えなくてもわかった。
 いちどおいて、あははっと笑う彼は、

「貴女には本当に参りますよ」

 僕は、ふふんっと、誇らしげな時の朱夏を真似した。
 ざあざあ、強いはしゃぎの雨。ひかりが咲かなくなり、静かな足もと。
 僕と朱夏の笑い声が、ふわふわ重なる夜の空。


9/30ページ