このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

溺愛しゅかゆづ夫婦 4

 仕事中の朱夏の楽しみは昼にある。
 弓弦手作りの愛妻弁当が食べられるからだ。
 間違っても他の人間どもに『ちょっとくれ』などと言われたくもないので、他人の目の触れない快適な場所へそそくさと移動し、お楽しみを広げる。
 いちご柄の布巾に弁当箱。弓弦の瞳の色を彷彿とさせ、気に入っている。その蓋をひらくと、色鮮やかで美しいおかずたちが、まるで飛び出る絵本のように。
 誰がどう見ても真心のこもった、素晴らしい、朱夏のためだけのお弁当だ。

「ふは、弓弦。貴女は本当に愛おしいひとですね」

 ぴしっと詰められた白米の上には、海苔。
 しかも、ちょっぴりぎくしゃくなハートのかたち。
 ハートがあるだけでもじゅうぶん愛おしいのに、そのぎくしゃくさがまた堪らない。
 何故かって?
 大好きな弓弦のことをよく知る朱夏は、この『ぎくしゃく』な理由がわかるからだ。
 弓弦は手先が器用な方ではない。それなのに、少しでも朱夏を喜ばせようとしてくれる。
 そして、彼女はとても照れ屋なので、ものすごく照れながら――あの可愛らしい顔を、かあっと真っ赤に染めながら、半ば『ええいやってしまえ!』という感じで、ハート海苔を作ったに違いないからだ。

「ありがとうございます、弓弦。いただきます」

 想いをこめて、両手をあわせる。
 おかずひとくち、白米ひとくち、驚くほどに美味い。弓弦の愛情がたっぷり授けられているからだろう。
 朱夏は頬を緩ませ、愛妻弁当を味わいながら、食べ終わったらさっそく弓弦に電話をしようと考える。たくさんの感謝と称賛と愛情を伝えたい。
 そうして、こんなにも弓弦に愛されているから、残りの面倒な仕事も頑張れる。もちろん彼女を愛している気持ちも負けやしないので、天上天下無敵に頑張れるわけだ。まったく大袈裟ではない。
 朱夏を癒し、元気づけ、底なしに無敵にしていく弓弦の手作り弁当。とっても美味しいそれらが、体中、指先から頭のてっぺんまで、じんわりと染み渡っていく。


13/30ページ