溺愛しゅかゆづ夫婦 4
ふいに思うのだ。
この幸せは、胡蝶の夢。
あるいは走馬灯。
池の底に沈み逝く僕が最期に観る、やさしい幻。
だってこんな僕に、こんな幸せが訪れるはずは――。
「弓弦」
はっ、と目が覚める。
視界がひどくかすんでいる。どくどくと、胸が痛い。
頬を包み込むてのひらは温かくて、
息すら忘れてしまった僕に、それを思い出させるような口づけがおりた。
「こわい夢だったでしょう。もう大丈夫ですよ」
夢――。
僕は、眠っていたの?
だんだんとひらけてくる視界に、朱夏の微笑みが映り込む。
そっと頭を撫でられ、僕が、ふるえながらの息を吐く。
「……朱夏」
「はい」
「ここは、……これが」
本当に、現実?
問いかけることすら怖い。
言葉を詰まらせてしまった僕を見つめ、彼はくすりと喉を鳴らした。
「ねえ、弓弦。俺も、こわい時があるんです」
「……?」
「貴女と出逢って、今、貴女とこうして生きていること。これが、ただただこの世に在るだけの、俺の幻想だとしたら、あまりに残酷で恐ろしい」
気高く強い龍の神さま。
そんな彼でも、そんなふうに思うのか。
こわいと感じるのか。僕と、同じように。
「ですが、これは現実で、真実です。この俺が言うんですから、間違いありません。――ですが、もし仮に」
朱夏はぎゅっと僕を抱きしめ、言葉を続ける。
「なにかの間違えで、これが夢と幻ならば」
語る彼は、どこまでもやわらかく、やさしい声色だ。
そっと歌われるような言葉たちに、僕はただただ耳を傾ける。
「ずっと一緒に、夢幻を見続けましょう。何百年でも、何千年でも。仮に貴女の居ない現実があるなら、目を覚ます必要などありません」
貴女も、そう想ってくれるでしょう? ――なんて、
自信たっぷりに笑いかけてくる朱夏の、たくましさ。力強さ。
ずるいくらいに、……格好いい。
「……うん。……ふふ、朱夏」
ありがとう。
つぶやきつつ、朱夏を抱きしめる。彼の力に負けないように、ぎゅうっと。
「どういたしまして」と朗らかな笑い声。すうっと肩の力が抜けていく。
そうだね、朱夏。
どちらでもいいのだ、貴方さえ一緒にいてくれれば。
夢でも現でも。
この幸せは、胡蝶の夢。
あるいは走馬灯。
池の底に沈み逝く僕が最期に観る、やさしい幻。
だってこんな僕に、こんな幸せが訪れるはずは――。
「弓弦」
はっ、と目が覚める。
視界がひどくかすんでいる。どくどくと、胸が痛い。
頬を包み込むてのひらは温かくて、
息すら忘れてしまった僕に、それを思い出させるような口づけがおりた。
「こわい夢だったでしょう。もう大丈夫ですよ」
夢――。
僕は、眠っていたの?
だんだんとひらけてくる視界に、朱夏の微笑みが映り込む。
そっと頭を撫でられ、僕が、ふるえながらの息を吐く。
「……朱夏」
「はい」
「ここは、……これが」
本当に、現実?
問いかけることすら怖い。
言葉を詰まらせてしまった僕を見つめ、彼はくすりと喉を鳴らした。
「ねえ、弓弦。俺も、こわい時があるんです」
「……?」
「貴女と出逢って、今、貴女とこうして生きていること。これが、ただただこの世に在るだけの、俺の幻想だとしたら、あまりに残酷で恐ろしい」
気高く強い龍の神さま。
そんな彼でも、そんなふうに思うのか。
こわいと感じるのか。僕と、同じように。
「ですが、これは現実で、真実です。この俺が言うんですから、間違いありません。――ですが、もし仮に」
朱夏はぎゅっと僕を抱きしめ、言葉を続ける。
「なにかの間違えで、これが夢と幻ならば」
語る彼は、どこまでもやわらかく、やさしい声色だ。
そっと歌われるような言葉たちに、僕はただただ耳を傾ける。
「ずっと一緒に、夢幻を見続けましょう。何百年でも、何千年でも。仮に貴女の居ない現実があるなら、目を覚ます必要などありません」
貴女も、そう想ってくれるでしょう? ――なんて、
自信たっぷりに笑いかけてくる朱夏の、たくましさ。力強さ。
ずるいくらいに、……格好いい。
「……うん。……ふふ、朱夏」
ありがとう。
つぶやきつつ、朱夏を抱きしめる。彼の力に負けないように、ぎゅうっと。
「どういたしまして」と朗らかな笑い声。すうっと肩の力が抜けていく。
そうだね、朱夏。
どちらでもいいのだ、貴方さえ一緒にいてくれれば。
夢でも現でも。
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