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溺愛しゅかゆづ夫婦 4

 窓をあけて、夜空を見上げる。
 ひどく暑い日々が続くけれど、夜が更ければさすがに涼しい。
 はあ、とため息がこぼれていく。その理由は、とてもくだらない。
 今日で七月が終わってしまう。そのことが、ただ、さみしいだけ。

 べつに七月に思い入れがあるわけじゃない。月がかわり、八月になって、困ることはなにもない。
 本当になんとなく――くだらない理由すらもなく、憂鬱だ。どうしてかなんてわからない。わかっていたら、ため息なんてつかない。

 ……朱夏のホットミルクが飲みたいな。真っ暗な空を眺めたまま、僕は思った。
 彼はテレビを見ていたはずだ。頼めば、きっと、作ってくれる。いつまでも窓際で、こんな無意味な憂鬱を浴びていても仕方がない。
 ぱたんと窓をしめた、そのときに。

「弓弦、体を冷やしますよ」
「朱夏――あ……」

 僕を心配してくれる彼の声。
 ちょうどよかったと振り向く僕のすぐ傍。そっと歩み寄る彼の手に、僕のお気に入りのマグカップ。
 かわいらしい絵柄のパインとイチゴが描かれたそれは、朱夏とお揃いのマグカップだ。「どうぞ」と差し出され、ふわりと甘い香りが漂う。
 ゆらゆら優しく揺れる乳白色。
 作ってほしいと思っていた、朱夏のホットミルク。

「……ありがとう」
「ふふ、どういたしまして」

 それをそっと両手で受け取る。「暑いので気をつけてくださいね」と朱夏は過保護だ。
 お礼を言うと、彼はとても誇らしそうに笑う。そして、ゆったり僕を移動させ、ソファに座るまでを導いてくれた。
 ――まだ、お願いする前だったのに。僕の願いと彼の想い、それらがぴったりのタイミングだったのだろうか。
 本当にこの龍神さまは、

「美味しい……」
「ふ。それは良かったです。はちみつの加減も、貴女好みでしょう」
「うん」

 僕をとことん溺愛して、大切にしてくれるのだから。
 わけもなくさみしかったはずの胸の中が、心が、ぽかぽかする。

 のんびりと朱夏のはちみつホットミルクを飲んでいるうちに、さみしさも憂鬱もどこかへ消え失せた。
 それどころか、僕の気持ちは明るくすらなっていた。大好きな朱夏のホットミルクと、彼の腕の中、ゆったり寄り添って。つまり、彼のおかげで。
 べつに月日が変わってもいいのだ。七月から八月へ、やがては夏の暑さから秋の涼しさへ。
 世界がどう移り変わろうと、

「大好きですよ。弓弦」
「ふふ、うん。僕も、貴方がだいすき」

 貴方は僕を好きでいてくれて、
 僕も貴方のことが大好きなのだから。


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