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溺愛しゅかゆづ夫婦 3

 あつくていやな日が続く。
『今から帰ります、なにか買っていきますか?』とにゃいんしてくれた朱夏に、なんでもいいからアイスをとお願いした。

 朱夏が買ってきてくれたのは、まるっこいパイン味のアイスだった。
 ああこれ、好きなやつだ、って。お願いするときは思い出せなかったのに、見た途端に思い出して、僕のそういうところも知り尽くしている朱夏は、やっぱりすごいし格好いいし、すき。

「弓弦、あーん?」
「ん。あー……」

 帰ってくるなり、てきぱきシャワーを浴びてパジャマに着替えて、そして僕を膝の上に乗せて、ソファでまったりくつろぐ朱夏。
 彼の指先がまあるい黄色のアイスをつまんで、僕の唇に寄せてくれるから。僕は朱夏のほうを見上げて、はちみつみたいな金色の瞳も大好きだと思いつつ、ちょっと照れくさいけれど、素直にアイスを食べさせてもらって――。

「……ねえ弓弦」
「んー?」

 もぐもぐ。口のなかがつめたくて気持ちいい。
 ゆっくり溶かして、飲みこんで、ひと息ついて、また食べたいなと思うころに朱夏が『あーん』をしてくれる。
 まるで親鳥にご飯をもらっている雛かな、なんて、けっして悪くない気分だけれど。僕は朱夏のお嫁さんなんだから、やっぱり雛じゃいやかも。
 そんなふうにぼんやり朱夏に甘えていたら、しばらく無言だった彼が、妙に神妙な面持ちで、

「俺の心臓が爆発しそうなんです。ちょっと、貴女が可愛らしすぎて」
「……へ?」

 どうしましょう、って、整った顔立ちをせつなげにさせて、眉を下げて……いやええと。
 どういうこと? 大丈夫なの?

「ちょ、ちょっと弓弦」
「こら、動くな。黙って」

 よくわからないなりに朱夏の心臓が心配になって、彼のパジャマのボタンを外し、胸もとをくつろがせる。
 かっこいい胸板、でも、それどころじゃない。ぴたりと耳をあてて、彼の心臓の音を聴いて、たしかにどくどくと素早い。

「大丈夫なの。お医者さん行く?」
「…………」
「朱夏?」

 心配で、たまらなくて。
 それなのに朱夏はなぜか軽く頭を抱え、長く深く吐息をし、それから改めて僕を見ては、

「貴女のそういうところも大好きですよ。大丈夫です。俺は強いので、仮に心臓爆発してもすぐに戻ります」
「ええ……? でも。貴方が苦しい思いをするのは嫌だ」
「大丈夫です。すみません、心配かけさせてしまう例え方をしてしまいましたね」

 ころん、ちいさなアイス。たぶん、最後のひとつ。
 それを朱夏が食べてしまって、あっと思っているうちに、そのままキスをされて。
 あまいあまいパインの味が、朱夏のやさしい唇に、そのキスに上書きされていく。
 僕の頭の中は溶けて、胸のなかがとてもどきどきして。朱夏と手を恋びとつなぎにすると、指と指のあいだから、ふたりぶんのどきどきが織り交ざるのを感じた。
 ……あ。ああ、わかった、

「愛しています、弓弦」

 いま、僕の心臓も、どきどきしすぎて爆発してしまいそうだ。
 朱夏が言いたいのはこういうことだったんだ。そういえば、僕のことが可愛いって、またそうやって褒めてくれていた。

「……だいすき。僕も貴方を、」

 こんなにいっぱい愛してるよ。
 貴方と同じ、ううん。貴方よりも。心臓が、胸が、どきどきとしすぎて、爆発してしまいそうなくらい。
 朱夏はとても嬉しそうに笑ってくれて、

「負けませんよ」
「僕だって」

 そんなやり取りで、笑い合う。
 貴方を抱きしめて、貴方に抱きしめられて。


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