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溺愛しゅかゆづ夫婦 3

 かわいい小瓶を用意しましょう、
 水面色の砂を敷き詰めて、
 彼と彼女をそうっと中に入れたら、
 その小瓶は、しあわせのかたちでしょうか。

「朱夏、ここは」
「俺もよくわかりませんが、大丈夫ですよ。弓弦」

 ああ、瓶詰めのふたりは名前を呼びあって、
 ぎゅっと手を繋ぎあわせ、安堵した様子で。
 ふたりがいれば大丈夫だって、
 揺らぐことのないふたりは
 そのうち足もとの敷砂に気づき、

「きれい。まるで、貴方の住んでいた池の水面みたいだ」
「そうですか? それをすくう貴女の方が、ずっとずっときれいですよ」
「……もう、貴方はすぐそうやって」

 小瓶のなかを好奇心のままに歩いてまわる、
 瓶詰めのふたりを眺めて、ふと思うのは
 そういえば彼は龍神様なのだ――気高く煌々、無慈悲で非道。
 わたしたちは、魔。わたしはひとを悪夢に詰め込む魔、
 そんなわたしたちがこの世界でいちばんに恐れ、畏れる朱い龍。

 その金の瞳はやさしく細められている、
 彼女に溺れ、彼女を愛し、彼女だけを慈しむ。
 それが、ふっと、こちらにずれる、その瞬間
 星のまたたきのような流し目、横目に見やるしぐさは、わたしの首もとに刃をあてがった。
 ただただ、残酷な眼。ぬくもりのひとかけらも存在しない、冷えきった、彼本来の。
 刃がするりと首もとをすべって

 ◆

「……ん……」
「弓弦、起きました?」
「うん……朱夏、」

 真夜中の寝室――。
 寝ぼけ半分、まぶたをこする弓弦が、すぐ傍の朱夏に訊ねる。
 ねえ僕たち、いまさっきまで、どこかにいなかった?

「ええ、瓶の中に。そういう夢を見ていましたね」
「貴方と一緒の、……ゆめ?」
「はい」

 朱夏は微笑む。その愛情は、弓弦だけに惜しみなく注がれる。
 なんだかわからない、わからないけれど眠い、そんな弓弦を優しく抱きしめて、朱夏は言う。
 子守唄をうたうかのような声色で。

「結構良い夢でしたよ。貴女がきれいで、可愛らしくて。俺と貴女とふたりっきりなら、もっと良かったですね」
「……?」
「あはは、おやすみなさい。俺だけの、大好きな弓弦」

 ころん。
 ふたりは、もう一度ベッドに横になる。
 身を寄せあって、あまえて、眠りにつく。


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