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溺愛しゅかゆづ夫婦 3

 弓弦は大きな音が苦手だ。
 だから、ごろごろがしゃんと鳴り響く雷にも、嫌そうな顔をする。

「大丈夫、俺だけを見ていてください」

 不機嫌そうに眉を顰める彼女は、轟くあの音が怖いのだ。強がるすがたも可愛いけれど、同時に、懸命に耐えようとする彼女を護ってやりたいと思う。
 お気に入りのソファにお気に入りの黄色いクッション。
 俺の膝の上に彼女を座らせ、向かい合い、彼女の耳を塞ぐ。じっと見つめあっては、不安げな瞳に微笑みかける。

「弓弦」

 額へ、瞼へ、キスをして。
 耳を塞ぐ手のひらの隙間から、俺の声だけを囁き込む。

「大丈夫ですよ。あんなもの、すぐに止んで無くなりますから」

 龍神の俺が保証します、
 あんなものこの俺が黙らせてやります。
 ゆっくり話しかけていたら、弓弦が、ふいにくすっと少し笑った。

「朱夏」

 俺の手のひらに、きれいな手を重ねて。
 生意気な雷鳴が落ちる、それが怖くないはずはないのに、弓弦はお利口にしっかりと俺だけを見て、

「ありがとう。貴方がいてくれるから、大丈夫」

 ――ああ。儚くて、強いひと。
 弓弦は俺に心を委ねてくれる。すり、と俺の手のひらに頬をよせ、深呼吸をして、ゆっくりと肩の力を抜く。
 他人も己も信じることの出来ない彼女が、唯一、こうして俺を信じてくれるのだ。こんなにも真っ直ぐ。理屈などなく。

「ありがとうございます、弓弦。俺だけの弓弦――」

 このひとのすべてが愛おしい。
 どんなものからも護って、決して離さない。
 やわく笑んでいるくちびるに、無理しなくて大丈夫ですよって、
 愛していますよって、キスをして。

 ◆

 片腕に彼女を抱き、細い背中をさすりながら。
 彼は、今だけ空いているもう片側の腕を持ち上げ、静かに手のひらをかざした。
 外も空もわざわざ見る必要はない。彼には、濁った雲間がわかる。少し意識を傾け、たとえば、叢で息を潜める獣のように。
 閃光が夜空を切り裂こうとした瞬間、
 そのいかづちを、朱い龍神の手のひらが握り潰した。
 いびつな静寂。握りこんだ拳を流し見る金の瞳は厳かに冷たく、

「弓弦、雷、止みましたよ」

 それは彼女に向けられる途端、ぱっと甘く、やわらかくなる。
 彼は二度ほど、ぱっぱっと手のひらを振った。ちょっとしたごみを払うかのように。
 そして、ほっと息をつく愛しい弓弦を、両腕でぎゅうっと抱きしめるのだった。


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