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溺愛しゅかゆづ夫婦編 2 (NL)

 行きつけの本屋に、こんなものがあった。
 立派な龍が描かれた表紙、本の名前は『龍神占い』。
 バッグの中に入れて持ち歩くことでも想定されているのか、僕の手のひらくらいの、本としてはちいさいサイズだ。
 その小ぢんまり感が、こう。うまく言い表せないけれど、とても良い。
 虹のかかった青空を飛ぶ龍。そんなイラストの表紙もすごく良くて、ビニールを取ることすら勿体なく思えて、購入してから家につき、ひと息ついても、ぼんやりその本を眺めてばかりいる。
 開きもせずに。

 そうこうしているうちに朱夏が帰ってきてくれて、しばらく本のことを忘れていた。
 思い出したのは、寝る前のくつろぎの時間のとき。朱夏とふたりでベッドに座って、サイドテーブルの上に、その本が置きっぱなしにされているのを見て。

「ああ、これ。読もうと思っていたんだった」
「? なんですか、それ」

 僕が手を伸ばしたら、僕より手足の長い朱夏が、かわりに本を取ってくれる。
 そういうところ、「どうぞ」と手渡し微笑みかけてくれるところ。朱夏のいちいちが格好よくて、ずるいなと思ったりした。

「ありがとう。今日、本屋で見つけて」
「……『龍神占い』? ちょっと弓弦、まってください」

 あぐらをかく朱夏の膝の上に座り、まずは本のビニールから、と思ったのだけど。
 タイトルに気づいてしまった彼が、とたんにむくれた声で、僕の手をゆるく制してしまった。

「そんな、弓弦。貴女には本物の龍神がいるじゃないですか。なにか占ってほしいんですか? 俺がじきじきにやって差し上げます」

 だからそれ要らなくないですか、なんて。拗ねた少年みたいな声で言う。
 僕は、思わず笑ってしまった。ああ、やっぱり。朱夏は――この龍神さまはとっても独占欲が強いから。やきもちやきなところがあるから。
 こうなってしまうんじゃないかな、とは思っていたのだけれど。でも惹かれて買ってしまったわけだし、朱夏に隠すつもりはまったくなかったから、

「どんなことから占いたいですか? 弓弦。ぜひとも俺に任せてください」

 朱夏の腕が僕を誘って、からだの向きをくるり。至近距離で向かい合い、優しくキスをされる傍ら、『龍神占い』の本は朱夏の神業? によってひとりでにふわふわ動き、サイドテーブルの引き出しの中へ。
 不要です、とばかりに、ぱたんと閉められた引き出し。しまい込まれてしまったあの本は、もしかするともう、探しても見つからないかもしれない。

「……弓弦」
「ん、そんな、寂しそうな顔しないで」

 心なし、しゅんとしている朱夏の赤い髪を撫でて、ごめんと謝る。
 朱夏はたぶんやきもちをやくだろうけれど、ここまでとは思わなかった。だから、とても悪いことをしてしまったなって。

「じゃあ……貴方と僕の相性占いから?」

 お願いしながら、ふと、『相性最悪です』とかって結果だったら、とても切ないなと思った。
 聞くのがちょっと怖くなってしまった、けれど――朱夏はぱああっと顔を明るくさせ、きれいな花が咲く瞬間のように笑い、「はい」と。それはそれは嬉しそうで。
 そのとき、僕はわかって、そして安堵した。
 朱夏は、僕との相性が、占いというもの的に良いのか悪いのか、既に知っている。きっと。僕は占い自体にあまり興味がある方じゃないから、たまたま話題にならなかっただけなんだ。
 だから、大丈夫なんだと。
 ……それに、

「まあ、占いもなにも、俺と貴女の相性はばっちりなんですけどね」
「ふふ。そうだろうね」

 そうじゃなかったら、一目惚れしたからと言われてなんやかんや付き合ったり、こうして結ばれて結婚生活を満喫したり、毎日『朱夏のこういうところ』って好きに好きを重ねたり、できないよ。

 貴方を抱きしめて、貴方に抱きしめられて、
 ふたりして笑いあって。
 僕と朱夏の相性占い。結果は、安心と嬉しさの『大良好』。
 なにより強くてきれいでかっこいい、いまは僕だけの龍神さまが占ってくれた結果なんだから、彼の誇るとおり、最強で最高なんだろう。


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