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溺愛しゅかゆづ夫婦編 2 (NL)

 見るからに繊細、真っ白できれいな手のひらに、朱い鱗。
 花ひとひらほどのそれを眺め、弓弦は話す。

「どう、しようかな。この前の時はイヤリングの飾りにしたから……今度はブレスレットの飾り?」

 俺の腕の中、膝の上、ちょこんと収まりながら、
 わくわく弾んでいる様子や声色が、とても可愛い。

「朱夏、どう思う?」
「そうですねえ。髪飾りもいいと思いますよ」
「髪飾り。うん、いいな、それ」

 そうする、と頷く彼女は、よほど俺の鱗が好きだ。
 龍神のかたちでいるときに、たまに落ちるもの。
 鳥の羽根が落ちる原理のように、俺自身はあまり気にしたことがないが、
 弓弦はそのたび俺の鱗を拾い上げて、
 手作りアクセサリーのワンポイントに使ってみたり
 手のひらサイズの円形の缶の中に入れて、御守りみたいにしてくれている。

『貴方のお下がりみたいで嬉しい。
ちいさな貴方みたいでちょっとかわいい』

 俺の鱗について。
 彼女はいつもそう言って、照れくさそうにはにかむ。
 とうぜん悪い気はしない。
 要はそれ、俺のことが大好きって話ですから。
 ――ああでもやっぱり、

「弓弦」
「ん? なあに……わっ」
「そろそろ俺の髪も撫でてください。鱗にばかり構わないで」

 いくら俺の一部分、
 彼女いわく俺のお下がりとはいえ
 手のひらのそんなひとひらばかりが
 彼女の視線も微笑みも独り占めなんて、ずるいですから。
 抱きしめる腕に少し力をこめ、彼女を覗き込む。
 ほとんど同時に俺を見上げた弓弦は、「そういうところだぞ」とくすくす笑った。

「なんですか?」

 なんとなくわかっているけれど、
 わざとらしく訊ねてみる。
 彼女が笑って、俺だけを見ていて、胸がときめいて
 どうしても自分の頬や口端が綻び、緩んでしまう。
 弓弦もまた、俺の鱗よりよっぽど美しい赤い瞳を、少しいたずらっぽく輝かせた。

「こわいはずの龍の神さまも、結構たくさんかわいいなと」
「ふふ。そうでしょう。俺って怖くて格好いいだけじゃなく、可愛いんですよ」

 仕返しに、とびきり甘くささやいてやった。

「貴女には及びませんけれどね。弓弦、大好きですよ」
「っ、……この」

 やっぱり可愛くなんてないよ、貴方は。
 真っ赤な顔、照れた頬を、むむっとふくらませながらの言葉。
 ほら可愛い。たまらないほどに。龍神の心臓もうっかり危ういくらいに。

 ふわふわ笑いあう。
 お互いすっかりお互いに夢中で、ええとなんでしたっけ、
 ああそう。俺の鱗より、俺をたくさん構ってください。
 大好きな、俺だけの弓弦。


「甘えんぼうさんだな」
「ふふ。はい」

 俺の髪や頬をゆるりと撫でてくれる、
 きれいで繊細な貴女の手のひら。両手。


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