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溺愛しゅかゆづ夫婦編 2 (NL)

 朱夏は完璧に仕事をこなし、定時ぴったりに上がり、足早に帰宅した。
 部屋の奥からぱたぱた駆け寄って出迎えてくれる愛おしい弓弦を両腕いっぱいに抱きしめて、

「なにか変わったことはありませんか?」
「ん、大丈夫。買った本が届いて、ずっと読んでいた」
「ふふ、そうですか。面白そうです?」
「うん。あとで読む」
「はい、でも俺のことも構ってくださいね」
「ふふっ、うん」

 細く小さい弓弦を抱き上げ、ふわふわと会話を交わしつつ、キッチンへ。
 夕食の支度はほとんど済んでいるようで、あとは朱夏が身なりを自宅用に整えれば、すぐに食事をいただけそうだった。
 そのことにじんわりとなる朱夏の心。それは、帰ってすぐにご飯が食べられるから、ではない。

「弓弦、いつもありがとうございます。無理はしないでくださいね。俺も手伝えますから」
「ん? ああ、うん。ありがとう、そのときはちゃんと甘えさせてもらうよ」

 弓弦が、朱夏のためを想って、ご飯を用意してくれている。
 朱夏は、そのことがとても嬉しく、幸せで、けれど生真面目な弓弦が無理していないか、心配にもなってしまうのだ。
 ふわりと笑い、こくんと頷いた弓弦の様子を見て、朱夏も「はい」と笑みを深める。弓弦は少し体が弱く、天気や気圧、その日によってまちまちにつらそうな時もあるが、今日は体調面も安定しているようだった。
 朱夏は弓弦の頬に口づけ、彼女をソファにそっとおろす。「少し待っていてくださいね」と、彼女との食事のための身支度に急いだ。


「じゃあ、いただきます。朱夏、今日も頑張ってくれて、本当にありがとう」
「いいえ。貴女を愛していますから。貴女こそ、俺のためにありがとうございます。いただきます」

 明るく、甘ったるく、幸せでいっぱいの食卓。
 手を合わせて『いただきます』をしたふたりの、今日の晩御飯は、冷やしそうめんだ。
 ここ最近の暑さを癒すのに相応しい、ひんやりとして軽めの食事。テーブルの真ん中には『流しそうめん機』なるものが置かれており、ちいさな水音と、さらさら水の流れるさまが見える。それも涼やかで、なかなか良い。
 流しそうめん機の向こう側で、ひと束のそうめんを流し機にセットしている、弓弦のかわいさ愛おしさには勝らないけれど。

「流れるよ、朱夏。取ってみて」
「はい」

 きれいな水とともに流れてくるそうめんを、お箸をつかって、ばっちりとすくい取る。
 軽いひと束のそうめんの中に、一糸、赤い色のついたものがあった。朱夏はご機嫌に笑みを深める。弓弦の瞳の真っ赤な美しさには敵わないが、運命の赤い糸のような色つきそうめん。
 めんつゆにつけて、つるんと食べて、彼女との結びをからだに取り入れるような気分に、これまたご機嫌になる。

「美味しい?」

 そう訊ねてくる弓弦の、やわらかい微笑み。
 朱夏を見つめる赤い瞳。弓弦というひとは、そのすべてが美しい。可憐で、愛らしい。
 この世のすべての賞賛の言葉や表現は、朱夏にとって、弓弦へと捧げるためだけにある。この世界でたったひとり、朱夏という龍の神の心を射止め、愛情に溺れさせた、弓弦という存在。
 朱夏が愛する、朱夏だけの花嫁。

「美味しいです。とっても」

 貴女との食事、貴女と笑い合うこと、貴女と一緒に生きている、この日々。
「そう、よかった」と笑う弓弦は、またもそうめんをそうめん流し機にセットして、朱夏へ「どうぞ」としてくれる。
 その想い、微笑み、やわらかい声色、美しい指先。
 瞬かれる瞳も、ふわりと揺れ動くベージュの髪と三つ編みも――。
 弓弦のなにもかもが、朱夏にとっての美味だ。
 彼女が用意してくれるからこそ、つめたい流しそうめんも、とことん美味しく感じられる。
 朱い龍の神は、今日も今日とて、自分だけの花嫁にぞっこんの溺愛っぷりなのだった。


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