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溺愛しゅかゆづ夫婦編 2 (NL)

 朱夏と弓弦が暮らす家の玄関には、ちみ龍という名のミニフィギュアが置かれている。
 背中から顔付近まで赤色、お腹からその周辺が黄色、枝角やたてがみや尻尾は青緑紫。
 赤と黄要素の強い虹色のちみ龍は、玄関のすぐそこの棚の上に、ちょこんと座っている。
 まるで、この家の番人――いや、番龍なのだと言いたげに。


 玄関先はわりと慌ただしい。
 たとえば今日のような平日の朝なら、

「それでは行ってきます、弓弦」
「うん、行ってらっしゃい。朱夏」

 仕事へ出かける朱夏と、それを見送る弓弦と、ちょっとしたさみしさを含んだキスの音。
 数時間が経って日が暮れたころになると、

「朱夏、おかえりなさい」
「ただいまかえりました、弓弦」

 ぱたぱた駆け寄って出迎える弓弦と、帰宅した朱夏と、今朝のさみしさを満たしつつ、時間をわすれて繰り広げられるキスの甘い音たち。
 たかだか数時間はなれていただけなのに、それをさみしがるほどの溺愛夫婦が、先にお風呂にするかご飯にするか、それとも? などとお決まりの言葉でいちゃつき、抱きしめあう様子。
 それらをちみ龍はすぐそこの棚の上で見届けているし、

「じゃあ一緒にお風呂、はいりましょうね」
「わ、わかった」
「あはは、貴女って本当に可愛いですよねえ」

 真っ赤な顔の弓弦を軽々と抱き上げ、ご機嫌に頬ずりをしたり、笑ったりする朱夏。彼がふいに、その金色の瞳を横にずらし、ちみ龍を見る。その瞬間。
 ぎろり。
 ひどく冷たい視線。朱夏はちみ龍を鋭く睨む。『弓弦は俺だけの花嫁ですからね』とでも主張するように。
 朱夏は、弓弦が『ちみ龍くん』と呼んで気に入っているちみ龍のことが嫌いなのだ。朱夏自身は他のあらゆる神々にすら畏れられている朱い龍の神だというのに、なかなか大人げないものである。
 そんな龍神の嫉妬や対抗心に燃えた、敵意剥き出しの視線を浴びても、ちみ龍はただただ棚の上にちょこん。おそらく風呂場へ向かうのだろうふたりを、黙々と見守っている。
 口をふわっとあけ、瞳はつぶら。のほほんとしたデザインの顔の裏側で、ちみ龍はきっとこうぼやいている。
 番龍も楽じゃない、と。


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