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溺愛しゅかゆづ夫婦編 2 (NL)

 とても朧げな記憶がある。
 小さいころに手作りしたべっこう飴。
 ぐつぐつうなる鍋のなかを
 なんだか怖い、そう思いながら、
 鍋をゆっくりぎこちなく傾けた。
 なかみを、ぐるりと一周。
 うっすら茶色っぽくなる砂糖水。
 飴色って、透明じゃないんだ。
 そんなことを考えていたような気がする。

 保健室登校だった小学生のころの僕の、
 ささやかであたたかい、そんな記憶。
 琥珀をうんと薄くしたようなべっこう飴はきれいで
 ぼんやり辿る記憶と思い出が、ふいに、
 貴方の金色の瞳の輝きと美しさに上書きされる。
 あまりにも唐突に。
 いま僕がべっこう飴を作ったら、どうだろう。
 貴方は喜んでくれるだろうけれど、
 どうせなら貴方と一緒に作りたい気がするな。
 砂糖水がぐつぐつ煮立ってとても熱い鍋を
 ぐるり、一周。なかみが均等になるように。
 もちろんキッチンミトンをして、取っ手をつかんで
 怪我のないように慎重にやると思うけど、
 僕を溺愛する、僕だけの龍神。僕の旦那さまは、
 貴女になにかあったら大変ですからって、
 きっと、僕に鍋を持たせたがらない。

 思い出のべっこう飴はきれいだよ、
 貴方の瞳の色をうんと薄くした甘いお菓子だ。
 そう言ったら、貴方はたぶん、ふてくされる。
『俺の瞳の方がずっときれいですし、貴女の好きな色ですよ』って
 べっこう飴にも対抗心を燃やす。

『朱夏、作ってみたいお菓子がある。よければ、貴方と一緒に』
 送ってみたメッセージは、にゃいんと鳴く暇もなく
『もちろんいいですよ。帰ったら作りましょう』
 貴方、いま、お仕事中でしょう。わるい龍。
『楽しみです。はやく帰りますので、いい子に待っていてくださいね、弓弦』
 僕に向かってやわらかく細められる彼の瞳、
 それが鮮明に目の前に浮かび上がった。
 胸のなかが、心が、ぽかぽかする。
 僕も、とても楽しみ。
 貴方と思い出をなぞれることが
 貴方とのべっこう飴が。


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