溺愛しゅかゆづ夫婦編 2 (NL)

 水もしたたる良い龍神。
 お風呂上がりの朱夏を見て、ふわっと思い浮かんだ言葉だった。
 先に寝支度をすませてベッドで寝転がっていた僕は、ついつい彼に目を奪われる。

「待ちました? 弓弦」

 彼もわかっているようで、そんなことを言いながら、とびきりの微笑みを向けてくる。
 どきり、高鳴る胸がどうしようもない。言葉も息もつまって、なんだかおかしな反応をしてしまいそうで、あわてて目を逸らした。
 もうこの時点でへんな反応だろうけれど。

「ふは、弓弦――」

 ゆっくりとこちらに歩み寄る朱夏が、ゆっくりと手を伸ばしてきて、その指先が頬に触れようとするから、いっそこちらから甘えてしまえと首をかたむけた。
 瞬間、

「ああ、すみません、俺。まだ髪とか乾かしていませんね」
「…………」

 はっとしたように遠ざかる手。
「貴女を濡らしてはいけませんから」なんて朱夏と、中途半端に取り残された僕。
 正直むっとした。いま、それ? 僕を大切にしてくれるのはいいけれど、貴方、たまにそういうところだぞ。
 触れて、キスをしてもらえると思ったのに。ぽつんと、さみしい。

「……僕がやる」
「弓弦?」
「乾かしてやるから、ここに座って」

 僕はベッドから起き上がった。
 自分でやるからいいですよと言いたげな朱夏の腕を引っ張り、椅子に座らせる。
 彼の肩にかけられたタオルを手に取って、まだまだ濡れている赤い髪をわしわし拭って。

「……きれい」
「? なんですかゆづ、わふ」
「なんでもない」

 こちらを見上げたがる朱夏のいちいち格好いい顔にタオルをかぶせ、じっとしていろと言い放ち、彼のきれいな髪を指で梳く。
 さみしさはとうになくなって、僕は彼の髪を乾かすことに夢中になっていく。
 ぽたぽた水滴がしたたるさまさえ、とってもきれいな龍神様。
 僕の朱夏。


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