溺愛しゅかゆづ夫婦編 2 (NL)
僕は朝から不機嫌だった。
今日はどうも駄目な日みたいで、朝食の目玉焼きを四回焦がしてしまった。
五度目の目玉焼きが一番マシな作りだったけれど、それでもちょっと焦げている。火のとおり過ぎたかちこちな黄身が、いかにも失敗作ですと主張する。
もう一度挑戦したいけれど、あいにく卵はもうないし、時間だって限られているので、これ以上目玉焼きにこだわっていられなかった。
ウィンナーを焼いて、お味噌汁を作って、それらもいちいち上手く作れず、出来上がった朝食は見た目も悪く不完全。
ああ、もう。嫌になるな。月曜日の朝、お仕事へ行く朱夏を、僕なりに一生懸命見送りたいのに。朱夏が少しでも気分良く出かけられるように、ちゃんとしたご飯を作りたいのに。
現実はこの有様。
「おはようございます、弓弦。朝ごはん、ありがとうございます」
「……うん。おはよう。だいぶ失敗しちゃったから、……ごめん」
寝室からやって来て、僕の頬に軽く口づけてくれる朱夏。
せっかくありがとうと言ってくれるのに、こんな出来で申し訳ない。うまくできなかった自分にいらいらして、彼と目も合わせられないことも。
朱夏のためを思うなら、せめて嘘でも笑っていた方がいいんじゃないか。あきらかに不機嫌でなんかいないで。わかっているから、なおさら腹が立つ。それすらできない僕のことが、本当に嫌いだ。
「座って」
「いえ、手伝いますよ」
とりあえず、ご飯にしなくては。
見るも無惨な目玉焼きを四つ、自分用の皿に乗っける。僕はこれだけでいい。
唯一まともな目玉焼き、これまた地味に焦げ目のついたウィンナーたちを朱夏のお皿に盛りつけ、お味噌汁をお椀にすくう。
それらを、朱夏がテーブルまで運んでくれる。
朱夏のぶんの白米をよそって、席につき、向かいあわせの朱夏にそれを手渡す。「ありがとうございます」と微笑む朱夏が、ふいに言った。
「ねえ弓弦。俺、いま貴女がどんな気持ちでいるのか、わかる気がします。むすっとした顔も可愛いですし」
金の瞳が僕をとらえる。なんでも見透かすような眼差しに、どくんと厭な心音がする。
さすがにこれはないですよ、とか、言われてしまうだろうか。やっぱり僕は彼の花嫁に相応しくない、駄目な――
「貴女は俺のためにご飯を作ってくれるでしょう? 俺は、それがとても幸せなんです」
「…………」
「目玉焼き、そんなに食べられないでしょう。こちらのウィンナーと、にいにいで交換しましょうよ」
朱夏はご機嫌に笑っている。
その笑顔があまりにも眩しいから、嘘だとかお世辞だとか、疑う隙もない。
僕の返事を待たずして、朱夏はささっとおかずを分けていく。焦げたものはぜんぶ朱夏の方へ、僕のお皿には焦げの少ない方ばかり。
「お昼、ちゃんと食べてくださいね。また電話します」
さらりと僕を心配しながら、いちばん酷い黒焦げの目玉焼きを食べ、
「貴女の一生懸命な想いが伝わって、愛おしく感じます。いつもありがとうございます、弓弦」
…………なんて。
ずるい。
「うん……」
ふっと肩の力が抜けていく。
僕の機嫌はいとも簡単になおっていく。朱夏に絆されて、救われて、愛されて。
「本当にずるい。すき、だよ、朱夏」
「あはは。俺の方がもっと大好きですよ」
お互いの弾む声と、途端に明るくなっていく室内。
僕のご飯を完食してくれた朱夏。きれいに空っぽなお皿たち。
今日はどうも駄目な日みたいで、朝食の目玉焼きを四回焦がしてしまった。
五度目の目玉焼きが一番マシな作りだったけれど、それでもちょっと焦げている。火のとおり過ぎたかちこちな黄身が、いかにも失敗作ですと主張する。
もう一度挑戦したいけれど、あいにく卵はもうないし、時間だって限られているので、これ以上目玉焼きにこだわっていられなかった。
ウィンナーを焼いて、お味噌汁を作って、それらもいちいち上手く作れず、出来上がった朝食は見た目も悪く不完全。
ああ、もう。嫌になるな。月曜日の朝、お仕事へ行く朱夏を、僕なりに一生懸命見送りたいのに。朱夏が少しでも気分良く出かけられるように、ちゃんとしたご飯を作りたいのに。
現実はこの有様。
「おはようございます、弓弦。朝ごはん、ありがとうございます」
「……うん。おはよう。だいぶ失敗しちゃったから、……ごめん」
寝室からやって来て、僕の頬に軽く口づけてくれる朱夏。
せっかくありがとうと言ってくれるのに、こんな出来で申し訳ない。うまくできなかった自分にいらいらして、彼と目も合わせられないことも。
朱夏のためを思うなら、せめて嘘でも笑っていた方がいいんじゃないか。あきらかに不機嫌でなんかいないで。わかっているから、なおさら腹が立つ。それすらできない僕のことが、本当に嫌いだ。
「座って」
「いえ、手伝いますよ」
とりあえず、ご飯にしなくては。
見るも無惨な目玉焼きを四つ、自分用の皿に乗っける。僕はこれだけでいい。
唯一まともな目玉焼き、これまた地味に焦げ目のついたウィンナーたちを朱夏のお皿に盛りつけ、お味噌汁をお椀にすくう。
それらを、朱夏がテーブルまで運んでくれる。
朱夏のぶんの白米をよそって、席につき、向かいあわせの朱夏にそれを手渡す。「ありがとうございます」と微笑む朱夏が、ふいに言った。
「ねえ弓弦。俺、いま貴女がどんな気持ちでいるのか、わかる気がします。むすっとした顔も可愛いですし」
金の瞳が僕をとらえる。なんでも見透かすような眼差しに、どくんと厭な心音がする。
さすがにこれはないですよ、とか、言われてしまうだろうか。やっぱり僕は彼の花嫁に相応しくない、駄目な――
「貴女は俺のためにご飯を作ってくれるでしょう? 俺は、それがとても幸せなんです」
「…………」
「目玉焼き、そんなに食べられないでしょう。こちらのウィンナーと、にいにいで交換しましょうよ」
朱夏はご機嫌に笑っている。
その笑顔があまりにも眩しいから、嘘だとかお世辞だとか、疑う隙もない。
僕の返事を待たずして、朱夏はささっとおかずを分けていく。焦げたものはぜんぶ朱夏の方へ、僕のお皿には焦げの少ない方ばかり。
「お昼、ちゃんと食べてくださいね。また電話します」
さらりと僕を心配しながら、いちばん酷い黒焦げの目玉焼きを食べ、
「貴女の一生懸命な想いが伝わって、愛おしく感じます。いつもありがとうございます、弓弦」
…………なんて。
ずるい。
「うん……」
ふっと肩の力が抜けていく。
僕の機嫌はいとも簡単になおっていく。朱夏に絆されて、救われて、愛されて。
「本当にずるい。すき、だよ、朱夏」
「あはは。俺の方がもっと大好きですよ」
お互いの弾む声と、途端に明るくなっていく室内。
僕のご飯を完食してくれた朱夏。きれいに空っぽなお皿たち。
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