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溺愛しゅかゆづ夫婦編 2 (NL)

 朝からしとしと続く雨が徐々に激しくなり、
 それがふいに嘆く声に聴こえたから、僕は朱夏にたずねてみた。

「これは、別れの涙なの?」

 七夕に降る雨は、そういうもの。
 そんな話を聞きかじっているだけの僕は、
 だからどうという話にもならないのに。
 そうだと知ったって、ふうんとしかならないし、
 そうじゃなくても、ふうん。きっと、そうでしかない。

 だから今まで、ろくに聞かなかったんじゃないの。
 朱夏と結婚して、何度も七夕を迎えているのに。
 なんて。訊ねたあとでもやもや考え続ける僕の髪を撫でる朱夏が、

「涙? まさか」

 はっと鼻で笑って、それは少し、くだらないものを一蹴する笑い方で、
 ……あまり僕の前ではしない笑い方。新鮮で、かっこいいな、とか。
 僕も大概かな。今さらかな。

「人間はどうしてこんなに話を美化するんでしょうね」
「七夕の話?」
「そうですし、他のもですし」

 弓弦、耳をかして。
 優しい声色の朱夏に頬を撫でられて、自然とうわむきに導かれる。
 僕たちをのせたベッドがぎしりと軋み、やわらかく微笑む朱夏の影が、ゆっくりと降りてきて

「――……」

 耳もとでささやかれる内緒ばなしは、僕にだけ。
 まくらにも、ベッドにも、サイドランプにも届かない。

「…………えぇ、そうなの?」
「あははっ、そんなものです。かわいい顔」

 僕だけが知った七夕伝説、というか、七夕の夜の雨の理由は、
 僕を『ふうん』とはさせてくれなくて、そのくらい意外で。
 でも、それより、いたずらっぽく笑った朱夏の、「大好きです」を宿したキスが心地よくて、

 貴方のこと以外、どうでもよくなってしまう。


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