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溺愛しゅかゆづ夫婦編 2 (NL)

「弓弦、何か願い事を言ってみてください」

 しとしと、雨降る朝。
 朱夏が唐突にそんなことを言うから、僕はただただ首を傾げた。
 どうして? ……聞けば、七夕だからだと言う。

「人間が勝手に作った季節事に興味はありませんが、貴女の願い事はなんでも聞きたいんです。あんなやつらより、俺の方が偉いですし。願うならもちろん俺でしょう?」

 ふふん、と自信満々。誇らしげな朱夏は、そうだ、龍神さまなのだ。
 あんなやつらというのは、織姫と彦星のことらしい。御伽噺のように語られる彼らを、まるでちょっとした知り合い、みたいに話す朱夏。
 彼は神さまだったな、とふいに思い出しては、納得してしまう僕。こういうのを、慣れというんだろう。

「うーん、願い事……」

 ない、わけじゃあ、ないけれど。
 どことなくわくわくした目の朱夏を見て、申し訳なくなる。僕の願い事なんて、所詮、そのくらいの。全然大したこともなければ、そもそもこれは願い事というより、

「……貴方と一緒にいたい」

 いつまでも。それはもちろんそうで、
 でもこれはそうじゃなくて。今日、一日中。そういう願い事。
 朝ごはんを食べて、着替えて、今からお仕事に行きますという朱夏に言っていいわがままじゃない。
 ほら、朱夏も、きょとんとしてしまっている。

「ううん、やっぱり、晩ごはんのデザートにパイナップルが食べ――」
「弓弦」

 だから買ってきて、そう言いたかったくちびるは、朱夏のキスにそっと塞がれる。
 ちゅう、ちゅ、優しいキスがつづけられる、そのあいだ。甘くふわふわしていく頭で、かろうじて、朱夏が、出かけるための上着をするする脱いでいることを知った。

「……ぷはっ、しゅか」
「弓弦、あとでパイナップルも買いに行きましょうね」

 ぎゅっと抱きしめられて、ベッドにふたりでごろんと転がって。
 だめだよ朱夏、こんな、僕のわがままなんかで。慌てる僕に、彼は優しく微笑む。

「大丈夫ですよ、俺を誰だと思っているんです。貴女が気になるなら、職場には、俺が行って帰った幻術でもかけておきます」

 そもそも余裕で休めますけどね、って、どうやら僕がどうのこうの言う隙もないみたいで。
 それでも、どうなのかな。でも。朱夏が大丈夫だと言ってくれるなら、大丈夫なのかな。

「……。僕のお願い、叶えてくれるの? 龍神様」
「もちろんですけど、そんな呼び方より、名前がいいです」
「ふふ、うん。朱夏」

 ちょこっとからかってしまう、ひねくれた僕にたいして、朱夏は頬を軽くふくらませながら、とても素直だ。
 ごめんねというつもりで彼の頬にキスをした。すごく嬉しい、ありがとう、朱夏。今日は平日なのに、ずっと貴方といられるんだね。
 名前を呼ばれて嬉しそうな貴方を、ぎゅうっと抱きしめ返して。嬉しいな、とてもうれしい。ずっと、胸がどきどきしてる。

 すきだよ、僕だけの旦那さま。
 貴方とずっと一緒に生きていけますように。


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