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溺愛しゅかゆづ夫婦編 2 (NL)

「弓弦、見てください。ほら」

 夏からの逃避行、湖のほとり、朱夏は僕を引っ張って、
 まるで貴女がたくさん咲いています――と、細められる金色の瞳の先に、赤い花の群れ。
 森のなかの深緑の奥。隠れるように咲く花々は、なんていう花なのだろう、僕は詳しくないからわからない。
 たぶん、朱夏も。花の名前なんて、わからないだろう。

「きれいですねえ」

 それなのに。
 彼は、花に興味なんかないはずなのに
 どうしてそれをきれいだなんて言うの、どうしてそれに向かって微笑んだりするの。
 こんな花、

「……やだ」
「ん、弓弦? どうしました?」

 踏みつぶしてやりたい、だなんて、僕の中の暴力を抑えこむかわりに
 朱夏の腕に必死にしがみつき、引っ張り、僕だけを見てほしくて
 そんな僕の情けないわがままを叶えてくれる金の眼差し、それが、名も知らぬ花に注がれていたよりも、あわくてやさしくてあたたかいことを解ってしまったから、

「な、ちょっと、どうしてそんな――寂しそうな顔、」

 うるさい、いやだ、貴方は、僕だけの。
 せっかくのデートなのに、どうして、どうして泣いてしまいそうで、くるしいの。


「弓弦、弓弦。すみません、俺、貴女が大好きなので。花になんか興味ないですよ、貴女みたいな花でしたから……」
「……うん」

 めんどうな僕を、めんどくさがりもせずに落ちつかせてくれる朱夏が
 そう言って申し訳なさそうに僕の背中を撫でるから、どうしようもなく、申し訳なかった。
 彼に気を遣わせてしまった罪悪感、いろいろと先走った自分への羞恥心。穴があるなら入って隠れたい。
 でもやっぱりこのまま、彼の腕の中に隠れていた方がいい、このままがいい。

 ……そういえば朱夏、言っていたな。
『まるで貴女がたくさん咲いています』
 ……でも。だって、それは僕じゃないし、僕はひとりだし。
 やっぱり、朱夏のせい。そういうことにしてもいい?

 良いですよ、って。
 貴方は安心したように笑う、甘ささえ感じるような口づけをしてくれる。
 すき。貴方のことが、こんなに。ぐるぐるから回りしてしまうくらい。

「ごめん、朱夏」
「いいえ。大好きですよ、弓弦」


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