溺愛しゅかゆづ夫婦編 2 (NL)
出かけ先にガチャコロコーナーがあって、僕はそれに吸い込まれていった。
『ちみ龍』というガチャコロがある。その名の通り、ちいさくて可愛らしい龍のマスコットフィギュアが、ランダムで出てくる仕様のようだった。
これを見かけなければ、吸い込まれることもなかったと思うのだけど。なんて考えつつ、手提げのバッグから小銭入れを取り出し、とりあえず一回。がちゃり、回してみる。
ラインナップされている龍は四色。赤、黄、青、緑。
「珍しいですね、弓弦。なにが欲しいんですか?」
「……。内緒」
ゆっくりとした足取りで僕に追いつき、背後から覗き込む朱夏を、ちらりと横目に見る。
彼と僕とでは身長差がありすぎるけれど、とにかく、それが笑っているのはわかる。たぶん、ガチャコロコーナーに吸い込まれた僕のことばかり考えていて、僕の目の前の『ちみ龍』には気づいていない。
なにが欲しいのって。それは、もちろん――。
僕を溺愛するためだけにひとの姿をした龍神さまの赤い髪。彼のもとの姿は、怖くて綺麗な真っ赤な龍だ。
三百円を入れて、ハンドルを回す。がちゃこん、ころころ、愉快な音が鳴る。
「……くっ、この……」
「開けて差し上げますよ。貸してください」
「い、いい。このくらい」
取り出したカプセルを開けることに少し苦労して。
暫くして、ぱかりと開いたそれ。入っていたちみ龍を、手のひらに置いてみる。
その色合いは、
「あれ、これ龍ですか?」
「そうだけど」
「……。シークレットっぽいですね」
同封されていたラインナップの紙を見つめる朱夏が言う。僕も、「うん」と頷いた。
出てきてくれたちみ龍は、全体的に薄い赤、お腹としっぽが黄色だ。口をふわっとあけた、どことなく間の抜けた顔。つぶらな瞳がとても可愛い。
――シークレットって、こんな色なんだ。はてなマークと黒塗りのシルエットだったから、知らなかった。考えてもいなかった。
赤と黄色。どっちも朱夏の色。赤が一番ほしくて、次が黄色かなと思っていたけれど、……この子の色がとても理想的で、すごく嬉しい。
ああ嬉しいな。心がどきどきしている。透明な袋から取り出したちみ龍。そのちいさな額のあたりを、指先で撫でてみて。
「ちょっと、弓弦」
ふふ、はじまった。
僕が欲しがっていたのは、このちみ龍くんだ。そのことを朱夏が知ったら、黙っているはずがないとわかっていた。
とっても強いはずの朱い龍の神さまは、僕が絡むと、途端にやきもちやきになる。僕の肩を抱き寄せながら、むすっとした顔で、僕の手のひらにちょこんと座るちみ龍くんを睨む。
「貴女には俺という最強の龍がいるじゃないですか。なぜこんなちみっこいのを欲しがって、可愛がるんです」
「はいはい、とりあえず、向こうに座ろう」
剥き出しの敵対心。
そんなに睨まなくてもと苦笑しつつ、ガチャコロコーナーの奥の長椅子を指さす。まわりには誰もいないけれど、ガチャコロ機械の前でこんなやり取りをしていたら、誰かの邪魔になってしまうかもしれない。
しぶしぶ頷く朱夏の、むすっとしていても格好いい顔を見上げる。手を伸ばし、その頬に触れ、よしよし撫でる。ついでに、彼の美しい赤い髪先も。
「貴方がいるからこそ、欲しいとか可愛いとか思うんだよ」
龍がモチーフのものを見ると、つい。それが赤や黄色、金色だったらなおさらに。
ようは朱夏がすき、ということなのだけれど。出てきてくれたシークレットちみ龍くんを睨みっぱなしの朱夏には、たぶん、伝わっていないだろう。
……あそこに座ったら、ちゃんと伝えられるだろうか。僕の言葉で、恥ずかしがらずに、貴方が好きだからだよ、って。
赤黄色のちみ龍くんは、本物の龍の瞳に睨み続けられてなお、のほほんとした顔のままだ。
やっぱり可愛い。
『ちみ龍』というガチャコロがある。その名の通り、ちいさくて可愛らしい龍のマスコットフィギュアが、ランダムで出てくる仕様のようだった。
これを見かけなければ、吸い込まれることもなかったと思うのだけど。なんて考えつつ、手提げのバッグから小銭入れを取り出し、とりあえず一回。がちゃり、回してみる。
ラインナップされている龍は四色。赤、黄、青、緑。
「珍しいですね、弓弦。なにが欲しいんですか?」
「……。内緒」
ゆっくりとした足取りで僕に追いつき、背後から覗き込む朱夏を、ちらりと横目に見る。
彼と僕とでは身長差がありすぎるけれど、とにかく、それが笑っているのはわかる。たぶん、ガチャコロコーナーに吸い込まれた僕のことばかり考えていて、僕の目の前の『ちみ龍』には気づいていない。
なにが欲しいのって。それは、もちろん――。
僕を溺愛するためだけにひとの姿をした龍神さまの赤い髪。彼のもとの姿は、怖くて綺麗な真っ赤な龍だ。
三百円を入れて、ハンドルを回す。がちゃこん、ころころ、愉快な音が鳴る。
「……くっ、この……」
「開けて差し上げますよ。貸してください」
「い、いい。このくらい」
取り出したカプセルを開けることに少し苦労して。
暫くして、ぱかりと開いたそれ。入っていたちみ龍を、手のひらに置いてみる。
その色合いは、
「あれ、これ龍ですか?」
「そうだけど」
「……。シークレットっぽいですね」
同封されていたラインナップの紙を見つめる朱夏が言う。僕も、「うん」と頷いた。
出てきてくれたちみ龍は、全体的に薄い赤、お腹としっぽが黄色だ。口をふわっとあけた、どことなく間の抜けた顔。つぶらな瞳がとても可愛い。
――シークレットって、こんな色なんだ。はてなマークと黒塗りのシルエットだったから、知らなかった。考えてもいなかった。
赤と黄色。どっちも朱夏の色。赤が一番ほしくて、次が黄色かなと思っていたけれど、……この子の色がとても理想的で、すごく嬉しい。
ああ嬉しいな。心がどきどきしている。透明な袋から取り出したちみ龍。そのちいさな額のあたりを、指先で撫でてみて。
「ちょっと、弓弦」
ふふ、はじまった。
僕が欲しがっていたのは、このちみ龍くんだ。そのことを朱夏が知ったら、黙っているはずがないとわかっていた。
とっても強いはずの朱い龍の神さまは、僕が絡むと、途端にやきもちやきになる。僕の肩を抱き寄せながら、むすっとした顔で、僕の手のひらにちょこんと座るちみ龍くんを睨む。
「貴女には俺という最強の龍がいるじゃないですか。なぜこんなちみっこいのを欲しがって、可愛がるんです」
「はいはい、とりあえず、向こうに座ろう」
剥き出しの敵対心。
そんなに睨まなくてもと苦笑しつつ、ガチャコロコーナーの奥の長椅子を指さす。まわりには誰もいないけれど、ガチャコロ機械の前でこんなやり取りをしていたら、誰かの邪魔になってしまうかもしれない。
しぶしぶ頷く朱夏の、むすっとしていても格好いい顔を見上げる。手を伸ばし、その頬に触れ、よしよし撫でる。ついでに、彼の美しい赤い髪先も。
「貴方がいるからこそ、欲しいとか可愛いとか思うんだよ」
龍がモチーフのものを見ると、つい。それが赤や黄色、金色だったらなおさらに。
ようは朱夏がすき、ということなのだけれど。出てきてくれたシークレットちみ龍くんを睨みっぱなしの朱夏には、たぶん、伝わっていないだろう。
……あそこに座ったら、ちゃんと伝えられるだろうか。僕の言葉で、恥ずかしがらずに、貴方が好きだからだよ、って。
赤黄色のちみ龍くんは、本物の龍の瞳に睨み続けられてなお、のほほんとした顔のままだ。
やっぱり可愛い。
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