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溺愛しゅかゆづ夫婦編 2 (NL)

 よく行くホームセンターのペットコーナーにいる、そのうちのいっぴきの文鳥は
 つやつやした白いからだ、立派な赤いくちばし、そして鋭い眼光をもって、通りかかる人びとを見ていた。
 その小鳥やうさぎやハムスター、つまり小動物コーナーにすら入れない僕は、透明な硝子部屋のなかの籠のなかの文鳥に、よくよく目を奪われては
 ええと、ごめんね、こんにちは、そちらのご加減いかがですかなんて、なんとなく畏まってしまったりする。

 まじまじ見つめるのは悪いと思うから、ちょっとしたら離れようというつもりで、僕はまだ文鳥を、そのきれいな鳥を眺めている。
 あちらは僕になんてとうに飽き、ご飯を食べ、たまにちるると鳴く。強い声は籠や硝子を通り越し、僕の鼓膜をつっついた。
 彼、あるいは彼女は、あんなにも凛々しく生きている。それが籠のなかだろうと、硝子小部屋のなかだろうと関係ない。文鳥はぴょんと止まり木に乗る。
 これぞ自由なのよと、とっても自慢げに。

「弓弦、すみません。お待たせしました」

 朱夏が少し早足でやって来て、ううんと首を振る僕に向かって微笑んだ。
 僕の隣に立つ彼のことも、あの文鳥は見る。そして、なぜだろう、ぺこりと頭をさげた。……そんな気だけ、した。

「帰りましょうか?」
「うん」

 なにやらお会計をすませているらしい朱夏の、買い物袋をもたない側の手。差し出されるまま手をつなぎ、頷いて、最後にもう一度ちらりと文鳥を見る。
 相変わらず鋭い眼光が僕たちを見つめていた。正確には僕じゃない、朱夏の方なのかもしれない。

「ねえ弓弦、知ってます?」
「なに?」

 彼と並んで歩く。金魚の通路を抜け、ペットコーナーを抜け、お店の出入り口はまっすぐ向こう。
 ぎらぎらまぶしい光を放っていて、ああ外は暑そうだ、嫌だなあと辟易する。
 その最中、彼は僕にささやいた。

「あの文鳥、好きであそこにいるんですよ。実はあれ、でろんと溶けて、籠から余裕で出れるんです」
「…………えっ」

 えっ、溶けるの? ええとそれは……たとえば、柔軟なからだの猫みたいに?
 そんなことありえないよと言えないのは、本来ならありえないことに
 目の前のこのいたずらっぽく笑う旦那さまも、いつでもどこでも自由自在に、龍の神さまのすがたに戻れるからだ。
 でろん、ではないけれど。


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