溺愛しゅかゆづ夫婦編 (NL)

「弓弦、大丈夫ですか。まだ吐き気もありますか」

 外は酷い雨。
 そのせいなのだろう、頭が痛い。朱夏にだいぶ心配をかけている。僕を覗く金の瞳が切なげで、とても申し訳なく思う。
 大丈夫、そう答えかけて、その言葉を呑み込んだ。吐き気を堪えていると受け取られたらしく、僕をゆるく抱いてくれている彼の、背中をさする手のひらに力がこもる。

「まだ、すこしつらい……かな。傍にいてくれてありがとう、朱夏」
「そんなの当然です」

 薬は飲んだけれど、頭痛はまだ治まらない。吐き気や、耳鳴りもある。大丈夫だと強がるより、素直にこう言った方が、朱夏は安心してくれる。無意味に笑みをかたどってしまう口端は、どうしようもなかったけれど。
 体調は最悪だ。でも、本心だった。朱夏が傍にいてくれる。ただそれだけで、僕の心は安定する。決して当たり前じゃないことを、当然だと即答で、真剣そのものの顔で答えてくれるのも、本当に嬉しかった。

「弓弦。……こんな天候なんて、ぶち壊して来ましょうか」
「ふふ、ううん」

 朱夏は龍の神さまだ。そういうことも、きっと、出来なくはないんだろう。
 でも、と僕は首をふる。そっと朱夏の服を握りこんで、彼の腕にいっぱい甘えた。

「僕と一緒にいて。朱夏、貴方がすき」

 いつでも、どんな時でも。僕の傍にいて、甘やかしてくれて、溺愛してくれる。こんなに素敵な朱夏が、僕だけの旦那さまなんだって。
 その事実だけで、僕は息ができる。多少からだが辛くたって、なんにも問題にならない。

「もちろん、一緒にいます。大好きですよ、弓弦。大好きです」
「うん」

 惜しみなく愛を告げてくれる。
 僕がつらくないように、けれども大丈夫な範囲で、強く優しく僕を抱きすくめてくれる。
 そんな彼がいてくれるから、こんな日だって、とても幸せな一日。幸せな時間なんだって、そう思えるよ。


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