溺愛しゅかゆづ夫婦編 (NL)
僕は、朱い龍の神さまに溺愛されている。
彼は――朱夏は、ことある度に面倒くさい僕のことを受け容れてくれて、
『大丈夫ですよ、弓弦。どんな貴女でも、俺は貴女のことが大好きです』
そう言って抱きしめてくれる。大丈夫、と頭を撫でて、優しいキスをくれる。
だから、べつに。彼に嫌われてしまうわけではないと、わかっているけれど。
「……ぺたんこだな……」
僕は、だいぶ平たい。
胸もないしお尻もそうだし体が薄っぺらい。全体的に、あるいは根本的に、肉付きが悪すぎるのだ。
男として生きていたときはあまり気にしなかった身体的なことを、今のこの女性としての生活で、こんなに気にするようになるとは思いもしなかった。
「まあ、べつに……」
ため息まじり。意味のないひとりごとを呟いて、パジャマから普段着に着替える。
姿見の中の僕は、むすっと浮かない表情だ。べつにだなんて呟きながら、それがただの強がりであることを、流暢に物語る顔。
でも、仕方ないじゃないか。たぶん、生まれつきこういう体質なのだろうから。僕なりにちゃんと食べているし、牛乳だって飲んでいる。何もしていないわけじゃない。
それに。何故こんなに悩むのかって言ったら、理由はひとつしかない。それはもちろん――。
「おはようございます、弓弦」
「ん、おはよう、朱夏」
ゆらり。僕の背後で揺らめく赤い髪。
背中から抱きついてくるお寝坊さん。彼の寝癖のついた髪を、よしよしと撫でる。そっと指で梳いてやる。
――彼に。朱夏に好きでいてもらいたいから、もっと好きになってほしいから、気にするのだ。朱夏はどんな僕でも良いと言ってくれるけれど、それに甘えてばかりなのはいけないんじゃないかって。
少しくらいふんわりとしていた方が良いと言う男性が多いようだから。朱夏だって、そうじゃないのかなって。
「弓弦。ふふ、弓弦、今日も可愛いですね。かわいいですねえ、本当にかわいいですね」
……かわいいかわいいって、もう。耳にたこができてしまうよ。
朱夏は寝起きから機嫌がいい。僕をぎゅうぎゅう抱きしめて、すりすりすりすり頬ずりをして、背中も胸もお腹のあたりも、わしゃわしゃっと撫でまくる。
それ、平たくて骨ばっているけれど、貴方はそれでいいの。つい、そんな言葉が溢れそうになったけれど。
「ああもうかわいいな……俺の弓弦。おはようございます、素敵な朝ですね。貴女が可愛いおかげです」
「っ……おおげさ」
「いいえ。大袈裟なんかじゃありません」
本当のことですよと微笑む。その金色の瞳が、僕を覗き込む。
ああ。どきっとしてしまう。彼の瞳は琥珀の宝石のように綺麗で、どこまでも吸い込まれてしまいそう。その上、その眼差しも表情も顔のつくりも、全部が美しくて整っていて、ずるいくらいに格好いい。
……そうだ。ずるいんだ。
思いながら、自ずと動く口が、勝手に言葉を紡いでいく。
「朱夏、……すき」
「あははっ、珍しいですね、突然。でもありがとうございます。俺も大好きですよ」
「……うん」
愛情をいっぱいに伝えてくれる、忙しない彼の腕。
それに触れて、身を預けて、ゆっくり瞼を閉じて。
朱夏の体温。鼓動。息遣い。たくさんの心地良さに包まれながら、ちょっと微睡む。そんな僕は、先ほどまで気にかけていた自分の体の薄っぺらさなんて、もうどうでも良くなっている。
だって、朱夏に好きでいてほしいから、気になるんだ。
その朱夏が、こんなに僕をかわいいかわいいってして、こんなにも真っ直ぐ溺愛してくれていたら。自信がなくて不安で面倒くさい性格の僕だって、僕はこのままでも良いのかななんて、そんな気になってしまう。
ああ、なんだか、いつだってこうだ。ふとしてひどく悩んでは、朱夏のおかげで急にどうでもよくなって。
「朱夏、お腹はすいた?」
「ああはい。そうですね」
「じゃあご飯にしようか」
はい、って嬉しそうに笑ってくれる。
本当にずるい。
朝ご飯なにを作ろうかな。なにがあったかな。
頑張って美味しく作ってやるから、覚悟して。
彼は――朱夏は、ことある度に面倒くさい僕のことを受け容れてくれて、
『大丈夫ですよ、弓弦。どんな貴女でも、俺は貴女のことが大好きです』
そう言って抱きしめてくれる。大丈夫、と頭を撫でて、優しいキスをくれる。
だから、べつに。彼に嫌われてしまうわけではないと、わかっているけれど。
「……ぺたんこだな……」
僕は、だいぶ平たい。
胸もないしお尻もそうだし体が薄っぺらい。全体的に、あるいは根本的に、肉付きが悪すぎるのだ。
男として生きていたときはあまり気にしなかった身体的なことを、今のこの女性としての生活で、こんなに気にするようになるとは思いもしなかった。
「まあ、べつに……」
ため息まじり。意味のないひとりごとを呟いて、パジャマから普段着に着替える。
姿見の中の僕は、むすっと浮かない表情だ。べつにだなんて呟きながら、それがただの強がりであることを、流暢に物語る顔。
でも、仕方ないじゃないか。たぶん、生まれつきこういう体質なのだろうから。僕なりにちゃんと食べているし、牛乳だって飲んでいる。何もしていないわけじゃない。
それに。何故こんなに悩むのかって言ったら、理由はひとつしかない。それはもちろん――。
「おはようございます、弓弦」
「ん、おはよう、朱夏」
ゆらり。僕の背後で揺らめく赤い髪。
背中から抱きついてくるお寝坊さん。彼の寝癖のついた髪を、よしよしと撫でる。そっと指で梳いてやる。
――彼に。朱夏に好きでいてもらいたいから、もっと好きになってほしいから、気にするのだ。朱夏はどんな僕でも良いと言ってくれるけれど、それに甘えてばかりなのはいけないんじゃないかって。
少しくらいふんわりとしていた方が良いと言う男性が多いようだから。朱夏だって、そうじゃないのかなって。
「弓弦。ふふ、弓弦、今日も可愛いですね。かわいいですねえ、本当にかわいいですね」
……かわいいかわいいって、もう。耳にたこができてしまうよ。
朱夏は寝起きから機嫌がいい。僕をぎゅうぎゅう抱きしめて、すりすりすりすり頬ずりをして、背中も胸もお腹のあたりも、わしゃわしゃっと撫でまくる。
それ、平たくて骨ばっているけれど、貴方はそれでいいの。つい、そんな言葉が溢れそうになったけれど。
「ああもうかわいいな……俺の弓弦。おはようございます、素敵な朝ですね。貴女が可愛いおかげです」
「っ……おおげさ」
「いいえ。大袈裟なんかじゃありません」
本当のことですよと微笑む。その金色の瞳が、僕を覗き込む。
ああ。どきっとしてしまう。彼の瞳は琥珀の宝石のように綺麗で、どこまでも吸い込まれてしまいそう。その上、その眼差しも表情も顔のつくりも、全部が美しくて整っていて、ずるいくらいに格好いい。
……そうだ。ずるいんだ。
思いながら、自ずと動く口が、勝手に言葉を紡いでいく。
「朱夏、……すき」
「あははっ、珍しいですね、突然。でもありがとうございます。俺も大好きですよ」
「……うん」
愛情をいっぱいに伝えてくれる、忙しない彼の腕。
それに触れて、身を預けて、ゆっくり瞼を閉じて。
朱夏の体温。鼓動。息遣い。たくさんの心地良さに包まれながら、ちょっと微睡む。そんな僕は、先ほどまで気にかけていた自分の体の薄っぺらさなんて、もうどうでも良くなっている。
だって、朱夏に好きでいてほしいから、気になるんだ。
その朱夏が、こんなに僕をかわいいかわいいってして、こんなにも真っ直ぐ溺愛してくれていたら。自信がなくて不安で面倒くさい性格の僕だって、僕はこのままでも良いのかななんて、そんな気になってしまう。
ああ、なんだか、いつだってこうだ。ふとしてひどく悩んでは、朱夏のおかげで急にどうでもよくなって。
「朱夏、お腹はすいた?」
「ああはい。そうですね」
「じゃあご飯にしようか」
はい、って嬉しそうに笑ってくれる。
本当にずるい。
朝ご飯なにを作ろうかな。なにがあったかな。
頑張って美味しく作ってやるから、覚悟して。
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