溺愛しゅかゆづ夫婦編 (NL)
俺は弓弦が大好きで、彼女のことならなんだって愛おしいけれど。
でも、ぼーっとしている時とかに、指のささくれを剥きとってしまう癖は、あまり良くないかなと思うんです。
だって、彼女のきれいな指が血だらけになってしまう。
傷だらけになって、その上、ばい菌が入ったら大変ですし。だから俺は、彼女がそれをしてしまうとき、その細い手首を掴んでやめさせる。
うっかり手折ってしまいそうなほど細い手首。弓弦が驚いたり、怖がったりしてしまわないように、そうっと。
弓弦は、はっと俺を見上げ、
「朱夏、僕……また、つい」
ばつが悪そうな顔をしながら、ふらりと視線をそらした。叱られる、でもいやだな、そんな子どもっぽい表情と仕草だ。
はい、とだけ返事をする俺は、無意識のうちに微笑む。べつに怒っているわけではないですし、弓弦もつい癖でってだけで。俺の気持ちをわかってくれるので、いいんですけどね。
彼女のなかなか直せない痛々しい癖も、俺にとっては愛おしいんですから。でもやっぱり色々と心配なので、気をつけてはもらいたいな。
俺の傍でやってしまう分には、俺がとめてあげられますけれど。
ぷくり。浮かび上がって、彼女の可憐な白い肌や爪先に滲む赤。
弓弦の体の中を廻っているもの、だと思うと――心配や理屈とは裏腹に、喉が鳴る。
俺もまあ一応、最強の龍神ですから。美味しそうだな、とか。
でも、長い歳月の中で、たとえば人間が勝手によこす生贄とかを、喰ったことはありません。少しも喰う気にならなくて。それらが流す血を見ても、汚いなとか、迷惑だなとか。
じゃあ何故、弓弦のそれが美味しそうで、喉が鳴るのかって? そんなの、決まっています。
彼女を愛しているからです。この俺が、この世界の何よりも、どんな存在よりも、弓弦というたったひとりを、心の底から。
「朱夏?」
「……あ。すみません、弓弦」
そんなふうに彼女の指先に惹かれていたら、怪訝そうに名を呼ばれてしまいました。
はっと我に返る。謝ると、彼女はちいさく首を振る。心配そうに俺を見るから、安心させてあげたくて。「大丈夫ですよ」と笑いかける。
「消毒して、絆創膏しましょう。俺がやって差し上げます」
「ん。……絆創膏、やっぱりそれなの?」
ふっと指先を動かし、向こうの戸棚から、消毒液のボトルと、絆創膏の入った箱を喚び寄せる。
自ずからこちらへやってくる道具たち。俺のこういう力についてはすっかり慣れっこの弓弦が、絆創膏の箱を見て、不満げな顔をする。
薄ピンク色の箱。見るからに可愛らしいそれは、中の絆創膏もそんな感じだ。薄ピンクに花模様の絆創膏。俺が、弓弦だったらとっても可愛くて似合うだろうなあって、買ってきたものです。
「僕はそんな子どもじゃないのに」
「でも、とっても可愛くて似合うんですよ。貴女に」
俺は大好きですけれど、貴女が嫌ならやめましょうか。
言いながら、普通の絆創膏はあったかなと思案する。そんな俺の名前をちいさな声で呼んだ弓弦は、
「……貴方が好きだと言ってくれるなら……やっぱり、それでいい」
って。ほんのり赤い顔で。
ああもう本当に――今日も本当に可愛くて、愛おしくて、たまらないひとだなあって、眩暈がするほどです。
ついつい、あははっと笑い声がこぼれる。ありがとうございます、弓弦。頬ずりし、彼女の頬にキスをすると、弓弦は照れ隠しのぶっきらぼうに、「べつに」と目を伏せた。
でも、ぼーっとしている時とかに、指のささくれを剥きとってしまう癖は、あまり良くないかなと思うんです。
だって、彼女のきれいな指が血だらけになってしまう。
傷だらけになって、その上、ばい菌が入ったら大変ですし。だから俺は、彼女がそれをしてしまうとき、その細い手首を掴んでやめさせる。
うっかり手折ってしまいそうなほど細い手首。弓弦が驚いたり、怖がったりしてしまわないように、そうっと。
弓弦は、はっと俺を見上げ、
「朱夏、僕……また、つい」
ばつが悪そうな顔をしながら、ふらりと視線をそらした。叱られる、でもいやだな、そんな子どもっぽい表情と仕草だ。
はい、とだけ返事をする俺は、無意識のうちに微笑む。べつに怒っているわけではないですし、弓弦もつい癖でってだけで。俺の気持ちをわかってくれるので、いいんですけどね。
彼女のなかなか直せない痛々しい癖も、俺にとっては愛おしいんですから。でもやっぱり色々と心配なので、気をつけてはもらいたいな。
俺の傍でやってしまう分には、俺がとめてあげられますけれど。
ぷくり。浮かび上がって、彼女の可憐な白い肌や爪先に滲む赤。
弓弦の体の中を廻っているもの、だと思うと――心配や理屈とは裏腹に、喉が鳴る。
俺もまあ一応、最強の龍神ですから。美味しそうだな、とか。
でも、長い歳月の中で、たとえば人間が勝手によこす生贄とかを、喰ったことはありません。少しも喰う気にならなくて。それらが流す血を見ても、汚いなとか、迷惑だなとか。
じゃあ何故、弓弦のそれが美味しそうで、喉が鳴るのかって? そんなの、決まっています。
彼女を愛しているからです。この俺が、この世界の何よりも、どんな存在よりも、弓弦というたったひとりを、心の底から。
「朱夏?」
「……あ。すみません、弓弦」
そんなふうに彼女の指先に惹かれていたら、怪訝そうに名を呼ばれてしまいました。
はっと我に返る。謝ると、彼女はちいさく首を振る。心配そうに俺を見るから、安心させてあげたくて。「大丈夫ですよ」と笑いかける。
「消毒して、絆創膏しましょう。俺がやって差し上げます」
「ん。……絆創膏、やっぱりそれなの?」
ふっと指先を動かし、向こうの戸棚から、消毒液のボトルと、絆創膏の入った箱を喚び寄せる。
自ずからこちらへやってくる道具たち。俺のこういう力についてはすっかり慣れっこの弓弦が、絆創膏の箱を見て、不満げな顔をする。
薄ピンク色の箱。見るからに可愛らしいそれは、中の絆創膏もそんな感じだ。薄ピンクに花模様の絆創膏。俺が、弓弦だったらとっても可愛くて似合うだろうなあって、買ってきたものです。
「僕はそんな子どもじゃないのに」
「でも、とっても可愛くて似合うんですよ。貴女に」
俺は大好きですけれど、貴女が嫌ならやめましょうか。
言いながら、普通の絆創膏はあったかなと思案する。そんな俺の名前をちいさな声で呼んだ弓弦は、
「……貴方が好きだと言ってくれるなら……やっぱり、それでいい」
って。ほんのり赤い顔で。
ああもう本当に――今日も本当に可愛くて、愛おしくて、たまらないひとだなあって、眩暈がするほどです。
ついつい、あははっと笑い声がこぼれる。ありがとうございます、弓弦。頬ずりし、彼女の頬にキスをすると、弓弦は照れ隠しのぶっきらぼうに、「べつに」と目を伏せた。
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