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溺愛しゅかゆづ夫婦編 (NL)

 ああ。朱夏がいない、夜。
 それは僕のための夜勤だって、わかっている。
 朱夏は頻繁にメッセージをくれる。電話だってしてくれる。

『弓弦、大丈夫ですか?』

 ……うん、大丈夫。そう答えたのは、僕なのに。


 彼がいない家。寝室。ダブルベッド。
 毛布にくるまり、丸くなる。イエスノー枕のノーの方を抱きしめて。
 ベッドの中が、ただただ寂しい。僕ひとりじゃ広すぎる。

(朱夏、はやく帰ってきて)

 さみしいよと素直にメッセージを送ることもできないくせに。
 ……だって、心配をかけたくない。留守番くらい、いい子にできなくちゃ。
 そうでしょう。
 じわりと滲む涙を堪えて、知らないふりをする。
 眠ってしまおう。朝になって、朱夏が帰ってきてくれるまで。


 なかなか寝付けない僕の耳に、スマホの着信音。
 僕と朱夏が好きな曲のオルゴール調。朱夏から、だけのメロディ。

『もしもし、弓弦、起きていたでしょう?
もちろんわかりますよ。俺が愛するひとなんですから』

 メッセージでのやり取りは、おやすみ、と送って切り上げてしまった。
 なのに、どうして。どうして朱夏は、ぜんぶお見通しなんだろう。
 龍の神さまだから……じゃないんだろうな。きっと。

『しばらく通話できます。貴女が眠れるまで、お話しましょう』

 寂しい思いをさせてすみません、とか。
 明日は即行で帰りますからね、だとか。
 朱夏の言葉たちに、僕は戸惑う。朱夏が謝ることじゃないのに。でも、安心する。矛盾が、心にじわりと沁みる。

『うん……朱夏』
『はい。弓弦?』
『イエスか、ノーか。どっち?』
『あはは。もちろん、イエスで』

 そう、じゃあ。貴方が答えてくれたから、抱きしめる枕をイエスの方に変えよう。
 朱夏は本当に、僕のことを僕以上に知っている。わかってくれる。
 たぶんそれは、それだけ僕を愛してくれているからで。
 ……手脚に挟んで抱きしめるイエス枕が、ほんのり暖かい。そんな気がした。
 朱夏の声と、そのぬくもりが、ひどい寂しさを紛らわしてくれる。

『朱夏、すき』
『ありがとうございます。俺の方がもっともっと大好きですよ、弓弦』
『……負けたくないな』

 ゆっくり肩の力が抜けていく――そして、うとり、と。
 いまなら、寂しいと思わず眠れる。
 きっと。


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