溺愛しゅかゆづ夫婦編 (NL)

 定時。
 飲みだのお茶だのと誘ってくるやかましい人間どもを『華麗にスルー』というやつで、仕事を終える。
 ここならひとの目もないだろうという場所で、龍のすがたに戻る。空をひとっ飛びして、俺と弓弦の住む家へ。
 今朝も俺を玄関で送ってくれた彼女が、もうこんなに恋しい。この想いが、とても誇らしい。


「朱夏、おかえりなさい」
「ただいま戻りました、弓弦」

 玄関先。家の奥からぱたぱたと軽い音がする。
 小走りで出迎えてくれる弓弦へ、ばっと両腕をひろげてみせる。おかえり、ただいま。幸せな言葉を交わしながら。
 弓弦は少し恥ずかしそうにした。けれど、足をとめることはなかった。まっすぐに俺の腕の中に飛び込んでくれて、俺の胸に額をぶつける。「痛い」と言いつつ、くすっと喉をいちど鳴らし、俺の服を握り込む。
 ……ああ、弓弦。弓弦だ。俺は彼女を想いのままに掻き抱き、だいぶ俺と身長差のあるちいさな彼女を、もぐりと包み込む。
 そして何度目かの吐息をした。弓弦、弓弦。俺だけの、大好きな花嫁。彼女の息遣い、彼女のすべてによって、身も心も癒されていく。

「お疲れさま。今日も、ありがとう」
「いいえ、貴女こそ。俺を待っていてくれて、ありがとうございます」

 ――こんな幸せは、他にない。


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