溺愛しゅかゆづ夫婦編 (NL)

 今日は休日。
 朝ごはんを食べ終わった僕と朱夏は、リビングでのんびり過ごしていた。僕は本を読み、朱夏はテレビを観ている。ソファの上。僕は朱夏の膝に座り、彼の腕の中。

「弓弦、あれ。見てください」
「うん? どれ」

 ふいに朱夏が指をさす。顔を上げて見やる先に、テレビの特集。『南国リゾートのトロピカルカクテル』。
 この夏にオススメですと宣伝されている飲み物は、なんというか、きれいなものだった。透明なグラス、上下で色が違う。
 たとえば今まさに映されているのは、上は緑色、下は青だ。きれいだとは思うけれど、味の想像がつかない。美味しい! ときらめくスタジオは、どことなく明るすぎて、わざとらしい。
 まあそれは僕がひねくれているだけか。

「飲みたいの?」
「うーん、飲みたいというか。見ていてください、……ほら」
「……?」

 画面が移り変わる。まだ同じ特集だ。どんっと大きく映されたのは、『夕暮れ』という名前らしいカクテル。上側が黄色、下側が赤色。グラスのふちに添えられたレモンが見るからに瑞々しく、差し込まれた赤いストローは、途中でくるりとハートのかたちを作っている。
 ――とてもきれいだと思った。
 なんだか妙に目を惹かれた。
 すると、朱夏が僕を呼んで、耳もとでそっと囁くのだ。

「まるで俺と貴女みたいですね。いいなって思って」
「っ、……くすぐったい」
「あはは」

 ああ、それだ。それが答えなんだとわかった。それから、ぼわっと自分の頬が熱くなる。囁きかける朱夏の、かっこよくてずるい、意図的に低くされた声色によって。
 彼が笑って、僕をぎゅっと抱きしめる。伝えたかったことはそれだけだったみたいで、朱夏はもう、テレビを見ていない。僕もまた、思考のすべてを、朱夏に奪われていった。

「弓弦」
「なに」
「大好きです」

 脈絡のない愛の言葉。顎下にそっともぐりこむ彼の手。僕が軽く振り向くのと、彼の手のひらが僕を誘うのと、ほとんど同時。
 うん。……僕も。
 ちいさな声でこたえて、そのまま唇をかさねる。朱夏が嬉しそうに笑う気配がした。僕の頬はもっと熱くなり、胸がどきどき、ふわふわ、落ち着かない。

 心地いい口づけ。
 ゆっくりと混ざりあう。


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