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溺愛しゅかゆづ夫婦編 (NL)

 僕自身の息を呑む音。息苦しくて目が覚めて、ああもうどうして、悪い夢なんか見るのだろう。
 どんな夢だったか、具体的に思い出せるわけじゃないのに。頭の奥底がゾワッと湿って、嫌な夢を見た後味だけがある。内容を思い出せないのなら、いっそ、嫌な夢を見たらしいことも忘れてしまえばいいのに。

「――弓弦」

 ベッドから上半身を起こし、額に手をつき、ため息をつく。そんな僕に気づいたらしい朱夏が、むくりと起き上がって、僕の顔を覗き込む。「大丈夫ですか?」と、僕を心配してくれる。星のひかりみたいにきれいな、彼の金色の瞳。
 僕はいつもこの瞳に――朱夏に救われているな、と。なんだか、まざまざ思った。

「……大丈夫。いつものことだから」

 最後の方。少し、声が震えてしまった。寒いわけでも、怖いわけでもないのに。へんな夢を見て夜中に起きる。こんなことは、日常茶飯事だった。
 なのに、今度は指先までも微かに震える。
 どうして?

「そうですか。弓弦、貴女は強いひとですね」

 朱夏の言葉に、ぽかんとする。……強い? そんなわけがないのに。むしろ僕は、誰より弱い。情けないやつだ。
 僕の震えに気づいているだろうに、朱夏はそう言って浮かべた笑みを絶やさなかった。良い子、と僕の頭を撫で、褒めてくれて。

「でも、当然ですけど、俺の方が強いんですよ。龍ですからねえ。だから、安心して甘えてください」
「…………」

 そっと、抱きしめてくれる。わけもわからず震えた、この指先ごと。僕の全部を包み込んでくれる。
 彼の胸の中で。僕は、ゆっくり、息を吐く。
 ゆっくりと息を吸う。彼の衣服を掴み、縋って甘えながら。

 貴方、そんなに僕のことを甘やかしていいの。
 ――もちろんいいですよ、と答える貴方の、穏やかに笑う顔。優しい体温。
 ゆりかごみたいに揺られて、眠くなる。もうそこに悪夢の影はない。


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