しゅかゆづ てのひら編


 雨降り、肌寒い夜。
 あたたかい貴方の両腕は、僕だけの揺りかご。



 うつらうつら。貴女がふねをこぐ。
 その真白い頬にキスをしたら、ふにゃりと綻ぶ、愛しの花。



 鬱陶しい雨ごと振り払うみたいに、
「朱夏、髪」
 俺の濡れた髪を撫でる、貴女のきれいな指の先。



 夜が来て、貴方と手を重ね、溶け合うみたいに見つめあって。
「弓弦、愛しています」



 なんの性質なのだろう、
 あるいは僕が知らないだけで、こういうものなのか。
 眠いときというのは不安になる。
 なんだか、きまって大切なものだけを、なくしてしまいそうで。
 だから、ねえ、朱夏。
 僕の手を離さないで。僕からいなくならないで。

「大丈夫ですよ、弓弦、なんにも心配いりません」

 断言する彼の声が、つないだ手のひらが、とても強く、とてもあたたかい。



 愛しい貴女と手を繋ぐ、
 絡みあう互いの左手に、それぞれ煌めく結婚指輪。



 貴女のため息ひとつ、俺だけのもの。
 わきあがる独占欲のままに、その唇を奪って。


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