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しゅかゆづ てのひら編

 買い物帰りの暑さに耐えかね、つめたい床にふにゃんとのびる弓弦へ
 アイス枕を持ってきてやったり、うちわでぱたぱた扇いでやったりしながら、俺は少し焦っていた。

「だ、大丈夫ですか弓弦、溶けてしまったりしませんか? 雪みたいになりませんか?」
「……ならないよ。もう、朱夏、おちついて」



 たった一瞬で、ざらざらと大雨が降った。
 あわてて窓を閉めにいく貴女の体温だけが、
 この腕の中。膝の上に、ふわりと残っている。
 たった一瞬、離れただけ。
 彼女はゆっくりこちらへ戻ってくる。
 けれどもその束の間さえ寂しく感じ、
 すでに収まりかけている雨音へ、腹を立てずにいられない。

 さんざ龍の神と畏れられようが
 貴女の前で、俺はただの『朱夏』で在る。



 彼女はとても美しい。
 細い指先、淡雪の肌、なめらかな髪、宝玉の瞳。
 彼女を構成するものすべてに、この世界に在る賛美の数々を当て嵌めたい。
 そして、そのいずれの拍手喝采も、彼女に対し足り得ない。

 貴女は儚く、可憐で、芯の強い――俺だけの、愛しい花嫁。



 あなたをぎゅうっと抱きしめる。
 その腕、体温、鼓動、心音、ああここが

(僕だけの)
(俺だけの)

 愛しい居場所なんだ、と。



 気だるげな貴女をからだの内から炙る夏ばてを羨む。



 目が覚めた息苦しさの中で、ぼうっと見蕩れる貴方の寝顔。



 うとうと、まだまだ眠そうな貴方と、僕も、うとうと。ああ、眠たいね。



 轟々と立ち込める暗雲に世界の終わりのような不安感を懐いたって、貴方が僕を抱きしめてくれるなら、あとはどうでもいい。



 百年の恋と謂うらしいけれど、俺の貴女への愛は、百年ぽっちじゃちっとも足りません。



 貴方と一緒のベッドなのになんだか少しさみしいのは、寝ているあいだですら貴方と離れ難いからだ。


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