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しゅかゆづ てのひら編

 轟く雷が煩くて嫌いだ、だから貴方の腕のなかに潜り込む。べつに怖いわけじゃないからな、ああでも
 僕の耳を塞いでくれる貴方の手のひらの温もりと鼓動に安堵して、

「大丈夫ですからね、弓弦」

 手のひらの隙間からの優しい声、ゆるやかな微笑み。深く長く息を吐く僕は、自分がずっと情けなく震えていることを自覚せざるを得ない。



 いやな夢からさめたあとの、どくどくころげ回る心臓がきらい。
 は、は、よくわからない息がかろうじて。ふるえる手をやみくもに伸ばす。
 たすけて、

「弓弦。俺はここですよ」

 しゅか、
 ……朱夏。ああ、
 貴方の背中にしがみついて。

 貴方の優しい声と鼓動。



 夜空にぱっと咲き誇る花火は確かに美しいけれど、
 俺にとっては貴女こそが、この胸を幾度も打ち鳴らす、色鮮やかで美しい花なんです。



 淡々、ぱらぱら、躍ったり跳ねたり、愉快そうに降りしきる雨粒。
 その隙間で、貴女の笑う声がちいさくひとつ。硝子の鈴を鳴らすような音色に、俺の心も愛しいと跳ねる。



 貴方の口づけと溺愛につつまれながら、ゆらりとただよう夜。



 一緒のベッド。おやすみ、おやすみなさいって、口づけをしたあとなのに。
 朱夏が何やら本を読んでいる、その真剣な眼差しを独り占めできないのが、なんだか悔しくて。
 どうやって気を引いてやろうかななんて、いたずらを考える夜も楽しい。



 貴女を噛んで喰べて俺だけのものにしたい衝動と、そんな空想にすら心が引き裂かれそうになる慟哭。



 人ごみがあり、屋台があり、たくさんの熱気があって、それでも。
 僕の手をゆるりと引き、はぐれぬようにぶつからぬようにと護り、僕の好きそうな屋台の前で立ち止まってくれる。
 そんな貴方に惚れ直すばかりの夏祭り。



 俺は人間なんか嫌いなので、仕事疲れを引きずって、ああもうとため息をついてしまうこともあるわけですが、

「朱夏。今日もお疲れさま。だ、だいすき、だよ」

 家に帰って弓弦を抱きしめて彼女からキスと愛情をもらって、あっという間にほら、めちゃくちゃ元気出ました。



 雨おと静々、響き渡り
 口づけ交わす貴方の瞳の、はちみついろ。

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