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しゅかゆづ てのひら編

 夏を防いだ室内で猫にでもなった気分でのびながら、
 貴方は大丈夫かな、お水飲んでいるかなと想い馳せる微睡み。




 夏に燃えた街の熱を吸い込み真っ赤に染まる夕空は、あんなに立派でも、貴方の髪色の一部でしかない。




 朝はつかの間すずしいから貴方とぴったりくっついて、ずっとこうでいいのになとまどろむ毛布と腕の中。




 ため息。彼女の憂鬱に彼女自身すら分かり合えないところへ、そのため息も憂鬱も思考さえも奪い取ってしまえとばかりのくちづけがおりること、
 日ごろ彼女を大切に溺愛する龍が時おりみせる喰らい方。どれもこれも彼女にとっての救いである。彼は彼女をすくい上げる。




 わけのない大きな憂鬱をため息に乗せて吐き出しても、どうしようもない曇り空が心にあって
 僕自身が持て余すそれを貴方のくちづけと微笑みがあっという間に晴らしていくので、敵わないと思った。




 悪夢に魘される貴女の手を取り、強ばった細いからだを抱きしめて、俺にめぐる体温たちが、この腕や肌や声を通し、貴女にぜんぶ行き届くように。
 それらは浄化だ。俺の最も得意とする火の力だ。貴女に付き纏うものを焼き尽くし、塵も残さず振り払いましょう。

 ――徐々に穏やかになっていく貴女の寝息。目端からつうっと美しい滴が伝い落ち、沈むからだが、俺にすべてを委ねてくれるかのようで。
 ああ、よかった。弓弦。
 俺はちゃんとこうして貴女の傍にいますから。どうか、良い夢を。どちらへゆけば、と迷うなら、俺が導いてさしあげます。ひだまりの方へ、

「――……しゅ、か……」
「……! ……ふふ」

 俺の名前をやんわりと呼ぶ寝言。貴女は俺を求めてくれる。眠りの無意識下でも。
 それが俺にとってどれほど幸せなことか。
 ほら、俺はここですよ。ここにいますよ、弓弦。
 貴女の寝顔が、ふわりとゆるむ。


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